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昨年春、もう20年以上視聴し続けている videonews.com で「韓国ドラマ」の特集があった。普段ドラマなど観ないので大して関心もなくやり過ごしていたが、主幹の神保哲生さんや相手役の宮台真司さんが熱く語るので、ここは先ず観てみるかと重い腰を上げて観てみた。

以下↓ videonews.com でのコメント

マル激としては初めて、韓国ドラマを取り上げた。コロナの「ステイホーム」によって自宅で映画を見る習慣が急速に広がった2020年、Netflixで人気トップ10に何と韓国ドラマが5作品もランクインした。『愛の不時着』、『梨泰院クラス』、『サイコだけど大丈夫』、『青春の記録』、『キム秘書はいったい、なぜ?』の5つだ。2021年の通年ランキングはまだ出ていないが、今年に入ってからも既に『ヴィンチェンツォ』、『わかっていても』などが大ヒットを飛ばしていてランク入りは間違いない状況だ。韓国語をマスターしていない日本人にとって韓国ドラマは字幕を読む手間もかかる。Netflix上には欧米、とりわけ今や大物俳優を惜しみなく起用するようになったハリウッド映画も数多くあがっている。もちろん日本でヒットしたテレビドラマなども多数ある。そうした中にあってなぜ韓国ドラマがこれほどまでに人気を博しているのか。
videonews.com の一押しを観る前に、映画『パラサイト 半地下の家族』を観て僕の持っていた韓国のイメージは全く新しく別次元に更新された。

宮台真司氏曰く「国家(南北問題)やアジア通貨危機後の格差社会が底流に流れていて常に大文字の主語が描かれている。日本にはそれがない。加えて、社会が抱える深刻さを、細かく配置された笑いで中和するように作られている」。このコメントが全てと言っていい。

『キム秘書はいったい、なぜ?』で五分おきに涙し、五分おきに笑うという初めての体験をした。続けて『梨泰院クラス』、『サイコだけど大丈夫』、『ヴィンチェンツォ』、『愛の不時着』』と続けて観てみた。ちょっと敵わないなぁと。高々ラブコメディやラブサスペンスでしかないのだが滅茶苦茶深い。月額990円という Netflix がやたら安く感じる。
何処かで書いた記憶があるが、僕は先ずドラマを観て涙することはない。自分は爬虫類か?と思うくらい感情が動かないのだ。過去の何処かの時点で(多分幼児期)心の深いところが複雑骨折したのだと思う。ところが、韓国ドラマが、何処かで封印した僕の「泣くことのスイッチ」を完全にオンした。

コロナ禍は、悪いことばかりでない.....ことの象徴の様な出来事で、過去に失った、もの凄い大切な何かを取り戻した様に感じている。特に『愛の不時着』の北朝鮮が舞台のシーンでのひとびとのコミュニケーションに、資本主義に置き換わらずに残されたピュアな人情をみることができ、そういえば小学校の低学年の頃、僕らはみな「貧しさ」と「情」が自然に同居していたなぁと気付かされる。
僕にとって、韓国ドラマが気付かせてくれたものとして、朝鮮半島の南北問題を象徴とする資本主義があった。人類史の発展過程として資本主義は避けて通れない。80年代に入って僕らの国日本は消費社会を謳歌してきた。今振り返るといい時代だったのかもしれない。ただ、それと引き換えに失ったものもある。ものの豊かさと心の豊かさは背反するものではないはずだが、結果的にはものの豊かさを先行させて今がある。

「失われた三十年」とはよく耳にするが、この間、経済も細り給料も上がらず日本は低成長の中で低迷してきた。そして、先進諸国は延命策として特に製造業を中心に安い労働力を求めて海外の後進国に工場を移転した。

これは、後進国だった東南アジアや南米、そして、アフリカ諸国にとっては資本の流動化を生んで良かった点ともいえる。所謂グローバリゼーションになる。そして今、コロナとウクライナ危機がグローバリゼーションを解体に追い込む勢いだ。
 
韓国の女優さんってみなさん美人
コロナのパンデミックだけでも多くのことを気付かされたが、ここに来てウクライナ危機が重なり、僕らはさらに深く世界の経済・社会・文化の変容に立ち会うことになった。その一つが「Web 3.0」。中央集権的で極一部の企業だけが独占する利益や情報、そして、そこでのリスクの大きかった 「Web 2.0」までの世界を一変させかねない。国民国家の終焉も現実味が増してきた。

今ウクライナでは、目を覆うような惨劇が日々起きている。ロシアの思惑では48時間でキエフを落とすはずだった。けれどもウクライナの善戦でロシアも苦戦を強いられ、加えて西側諸国の経済制裁で五月にはデフォルトを起こすのではというくらいロシアも追い込まれている。

このウクライナの善戦を支える一つに Web 3.0 があるといったら何のこっちゃとなると思いますが、実は、こういった言い方は不適切かとも思いますが、戦火に交えるウクライナは惨劇の宝庫でもあります。その現場をスマホでwebにアップし「NFT」(鑑定書のように、商品となるデータが複製・偽造されたものではなく、不正なしに所有されていることを証明するもの)として寄付金を集っているのです。発案者は若干31歳のフェドロフ副首相。
   
  「NFT」とブロックチェーンという新しいWeb 3.0の環境を使って繰り広げられる戦争って、全く新しい形態になる。これ勝者も敗者もないのでは。

コロナがなかったら、韓国ドラマによる気付きもなかったしWeb 3.0への移行も気付かなかったと思う。コロナ、韓国ドラマ、Web 3.0、それぞれ全く次元も位相も違ったもののように思えるが、実は底流で深くリンクしている。
 
 





 
 
   ちょっと脱線。

先月末、『愛の不時着』の両主人公(ヒョンビン&ソン・イェジン)が結婚なさった。あれだけ完成度が高いシナリオのドラマを共演したとしたら、いくら優秀な役者であっても、いや役者であるから故、劇中の役と現実の自己とが同化してドラマとリアルが重なってしまうのも無理はない様に思う。

で、僕自身は、主人公の演技にも感心したが、何より端役のキャラクターと役者の演技力に感服した。特に、超悪役チョチョルガン(オ・マンソク)は不死鳥の様に、いやゾンビの様に蘇り続け主人公役の後輩ヒョンビンに「もういい加減に死んでください!」と言わせるほどの執拗な演技。舞台俳優で、後輩のために飲食店と経営しているところにも敬服。一番好きな俳優かも知れない。
 
   







ク・スンジュンとソ・ダン
 
  videonews.com の神保哲生さんによると、職場のグループ内では、セリ派とダン派とに分かれるそうで、彼はダン派だそうですが、僕も同じです。役の上での一途なピュアさはヤバいです。そして、相手役のク・スンジュン(最初に覚えた配役名)もキャラも含め好きになりました。役に入り込み過ぎて鬱になった後の復帰作品だったそうで、そんな真摯な役者魂も凄い。劇中のセリフもなかなかいかしてるけれど、実生活での取材のコメントも哲学的で深く繊細なところが意外で魅力的だ。

出演者の取材コメントを検索して眺めると、多くの役者さんのスタンスが宮台真司氏の指摘にあったように常に「大文字の主語」=(国家)を含んだところで(意識したところで)発言なさっている。当たり前だが、そういった精神的な基盤がシナリオだけにある訳ではない。役者も含めた韓国の現実の認識が皆さんに共通項としてあるということ。そこがドラマ全体の無意識の深みを持たせているのだと思う。
 
   
「ドライブ・マイ・カー」
 
  アメリカのアカデミー賞が人種差別に裏打ちされた白人のものという時点でクソだが、その価値がどの程度のものか今となっては怪しいが、観ないで批判するのもおかしいので、先日今回受賞した邦画『ドライブ・マイ・カー』を劇場で観てきた。

韓国ドラマとの比較は、そもそも異相なのでナンセンスだが、映像表現という括りで見ると同じ土俵に乗せることもできるかな。その視座で見ると邦画『ドライブ・マイ・カー』は「大文字の主語」は皆無。その代わりというか、個人を超えたところで人間を規定するものは、抽象的なエピステーメとしての現代病(精神疾患や性同一障害、そして、発達障害等)を据えている。こうなると表現は高次になり複雑になる。そして、「個」は退き病んだ社会基盤そのものが浮上してくる。

劇中劇や多言語の設定は、手法としては特別新しいものではなく古くからある「異化作用」の重層化。その意味で、新しい映画を超え出て新しい映像表現と言った方がいい。現代詩の吉増剛造のスタンスに近い。
 
     
  表現として高次だから優れているということはない。ただ日本社会って複雑なんだなぁと。。劇中にも出てくるが、役を演ずるという営為は極力省かれ、限りなく無機的な記号に近付くことを演出家から強いられる。 多分、それが僕らのリアリティーだということを言わんとしているのだろう。

韓国ドラマ『愛の不時着』とかを繰り返し観た後に『ドライブ・マイ・カー』を観ると、それこそ安冨歩東大教授の言う「複雑さを生きる」を地でいってる感じ。言うまでもなくこちらが現実。なので僕らの現実って複雑骨折していて、どちらかというと不幸。

でも、そもそも表現ってリアリティーを追いかけるためにだけあるものじゃない。所詮虚像でしかない。やはり邦画『ドライブ・マイ・カー』と韓国ドラマの比較は、あまり生産的じゃないかな。「賞」とは何かという問いも生まれてしまうし。。

韓国ドラマについて触れようとしたのですが、ほぼ『愛の不時着』のコメントに終始してしまいました;; 素晴らしいラブロマンスなので仕方がないですね。

韓国ドラマ、新しい発見でした。出会えて良かった。
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