篠原誠司写真展「ひかりのおと」artspace& cafe HPより |
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この18日 artspace& cafe にて台風で順延となった■トークイべント■吉増剛造×篠原誠司 「ヒカリノオト」(司会:菊井崇史)
があった。吉増さんは、言わずと知れた、吉本隆明曰く「現代日本の詩人を代表する一人」。篠原さんは、現在足利市立美術館の学芸員であると同時に、吉増さんが追う折口信夫の旅をカメラを携えて追体験する同行者でもある。 現代詩は現代美術と同じで、そのコンテクストを知っていないと理解は難しい。中原中也で止まっている僕としては、吉本さんが絶賛する詩人が足利に来るとあってAmazonと「日本の古本屋」で代表的な著作を買い漁った。 読んでよかった。「折口信夫ノート」には、極めて具体的で細かな機微までも言葉にしていることに驚嘆した。「えっ、折口信夫の文面の行間から、こんなにも多く深く感じ取るの!」という感じだ。ちょっと凄い。 |
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吉増剛造さんから頂いたサイン |
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前回、吉増さんが吉本さんの詩や著作を何年もかけて筆写なさっていることに触れたが、僕も真似て『心的現象論序説』を毎朝筆写している。始める前は三日坊主になるか、さもなくば苦痛に感じ始めるのではと思っていたのですが、豈図らんや3週が過ぎたのですが朝がくるのが待ち遠しいほど楽しい(写経のようです)。 考えてみたら、吉本さんも詩人なのだった。 イベントの後での懇親会のとき吉増さんに「お住まいはどちらですか?」と伺ったところ、名刺を差し出して「吉本さんが生まれた佃島です」と仰る。もうびっくり、そして何と素直な方なんだろうと…。 最初は、「パリ」とか仰るかと思っていました。というのも奥様は、5ヶ国語に堪能な才女で、おまけに絶世の美女であり、お生まれがブラジルのダンサーです。吉増さんも深くリスペクトなさっている方なので、「佃島」とは虚を衝かれました。 |
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司会者+篠原誠司+吉増剛造 |
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僕は、こういったイベントの後の質疑応答には必ず質問することにしている。今回も、事前に用意していたネタが有ったのですが司会者が若いということもあり、あまり中身が深まらずに終わってしまった感があったので、このお二人が「ここに居る」ことの必然性を感想として述べさせて頂きました。その内容は以下↓になります…・ 先ず篠原さんの作品の多くは、フォーマットが四角い昔で言う中判カメラや二眼レフカメラと同じ正方形になっている。彼自身お腹で支えて上から覗き込むウェストレベルファインダーである二眼レフが何故か好きで、未だにそのフォーマットに設定してデジカメも使っていると仰っていた。これがポイント1です。 続いて、篠原さん曰く「吉増さんの作品には『時間』を感じるが自分にはそういった要素はない」ということ。彼は元々多摩美大在学中吉増ゼミの生徒だったので吉増さん曰く「時々ふらっと旅に出てしまう放浪グセのあるような変わった生徒だった」そうで、ご自分でも、A地点からB地点を結ぶ線を描きつつ旅を重ねるのが好きだということ。これがポイント2です。 |
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先ず、ポイント1ですが、こう切り出しました.... ・「篠原さんの作品からは『視覚』を感じません」。 ・「じゃ、どこで視ているのか......それは内臓です。内臓で視ているように感じます」。 ・「それは二眼レフのフォーマットに親和性を持って何故か馴染むと仰っていたことに重なります」。 ここで言いたかったことは、内コミュニケーション(吉本さんが三木成夫さんから得た母胎と胎児との会話)の記憶によって視ているということです。加えて三木成夫さんの言う「心は内臓が形作る」ということに重なります。それが、お腹で支える二眼レフのイメージです。 |
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・「吉増さんの作品には時間を感じるが、自分にはそういったことがないと仰ったことの意味ですが...それは吉増さんが、吉本さんの詩や著作を筆写されているとに重なります。つまり吉本さんによれば手を使って書くという行為は時間性を意味し、ここで言う時間とは了解性だということです」。 ・「吉増さんが”手"で、じゃ、篠原さんは何なのか....それは"足”になります。それでは"足”とは何か....吉本さん曰く、それは関係づけだと…・理屈っぽくてすみません」。 ここで「いいお話....」と吉増さんから、合いの手のように声をかけられ安堵。そしてポイント2は、篠原さんが”足”つまり吉本さんの言う空間化=関係づけという志向性を持つということです。 こうして振り返ると結構理屈っぽいですねぇ;;でも懇親会では、吉増さんから呟くように「僕らの話より貴方の話の方が面白かったかな....」と声かけられ救われました(本当は吉本理論が難解なせいです;;)。 |
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吉増剛造+大澤伸啓(僕の受講する歴史講座の講師です) |
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実は、吉増さんご自身いわゆる写真機 とは長い付き合いのようで写真を撮ったあとに詩をつける作品も多い。多重露光などといった凝った画像もたくさん残している。僕自身も多いときは四台も中判カメラをもっていたので、写真の技術的な話題やカメラの機構の話に流れるのは嫌じゃなかったのですが、でも折角「ことば」と闘ってきた世界クラスの詩人からは、言葉と心を繋ぐ話を聞きたかったので、意識して写真を言語に関連付ける方へ流れを付けれればと願っていました。 一時間は、ほんとうに短く、本質にすっと触れれば良いほうです。なので吉増さんご自身が、わざわざ氷に包んだシャンパンを持参戴いた懇親会に期待を寄せて待ちました。これを逃したら二度とチャンスはないと覚悟して....(ちょっと大袈裟です)。 |
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詩人中の詩人に、僕が是非聞きたかったこと.....それは、人類(ひと)が 歴史上初めて描いた絵はどういったものだったのかという疑問と並んで、ひとが発した最初の「ことば」、あるいは発音した「ことば」は母音なのか子音だったのかという疑問。これは中原中也の言う「名辞以前」より更に前の原発語とでも呼ぶべき意識を声音に変換した瞬間の出来事になる。この問に応えられるひとは吉増剛造を除いて他にいない。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
十年程前、たまたまラジオ(荻上チキsession 22)を聴いていたら漫画家の押見修造さんが出演し若い頃、吃音(どもり)だったことを話していた。吃音には、大きく分けて2タイプあり、一つは母音が出てこないタイプ。もう一つは連発型といって、同じ発音を多々羅を踏んで繰り返してしまうタイプ(テテテ、テーブルといった風に)。彼は母音が出ないタイプだったのだが、ある日❝裏技❞を見つけたという。それは、先ず子音から発し、子音を呼び水のように使ってスルッと母音に移行するという発語法だということ。 それまで漠然と発語の起源はきっと「母」音というくらいだから母音だろうと思っていた。でも、このラジオを聴いて瞬時に、いや子音だなと直感した。 三木成夫さんによれば、ひとが言葉を話すということは、人間工学的に言って異常な負荷をかける行為になるという。というのも、発声は、呼吸を止めなければならないからだ。とても不自然なことを犠牲を払ってやっていることになる。人類最初の発語に至っては、もう尋常じゃない脱吃音だったはずなので、これはもう事故の様、あるいは狂気の様だったと思う。 |
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....... と考えているんですけれど、吉増さんはどう思われますか?と訊ねたところ「... もう完璧じゃないですか。僕もさっきまで母音が最初かと思っていたけど、今のお話を聞いてその通りじゃないかって思う」といった回答。ちょっと拍子抜けしましたが、そう外れてはいなかったことにまずまずですが、きっと吉増さんのことですから、この先更に深い解を引出されるのではと、来年の4月に予定されている足利
artspace & cafe での個展が今から楽しみです。 吉本さんが、繰り返し「病的」とは、「異常」とは何かという問を持ち続けたのも、平常ではない心のあり方の内にクリエイティブな表現を紐解く鍵があると踏んでいたからに他ならない。 ずっと引っかかっていた問題だったので、取敢えず雲の晴れ間をみた想いです。明日の朝も、吉増さんに習って吉本さんを筆写しようと思います。 では、では。 |
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