「蝶花紋彫二段重」 |
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生涯を通じて、こんな風に来る日も来る日も彫りに明け暮れたことはなかった。 皮肉なことに、コロナ禍が僕にとって、思いもよらない幸運な?事態を生んだ。修行当時、僕は一応彫刻部に所属していたが、だからと言って一年中彫りを続けられた訳ではなく、半年以上は漆の下地作業や摺り漆といった仕上げ作業をしていた。 東京の銀座や六本木で個展を続けてきたことは、幸運にも工芸作家としては最適地を選べて来たことになるが、コロナ禍では全く逆の事態となった。殆どのギャラリーは入場制限をしながらオープンしているのは知っている。でも、日本で一番危険な地域に「個展を開きますのでご覧ください!」といったDMを、長くファンになって下さっている方々に送る気はしない。ここはもう腹を括って、普段ならそうそう出来ない一番楽しい作業を毎日繰り返してやろう!と決めた。 |
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あと何年この仕事を続けられるか分からない。なので、敢えてこの機会に大きめな木地を選んで彫刻をしている。朝から晩まで夜なべを挟んで彫り続けている。何故だか分からないが、彫りをしていてストレスを感じることはない。ほぼ「遊び」に近い感覚だ。これって個人的な資質なのかどうか.....。漆の作業をストレスなく続けられる方もいるのかも知れないが、未だ会ったことはない。 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
絵画と違って木彫の様な伝統的な彫刻は、フラットな何もない面に凹凸を付けてゆく作業になるが、これって視覚にも訴えるが、何より触覚で感知できる表現になる。そこがプリミティブで力強い感触が得られる所以だ。 そして、バカにならないのが常に「手」で触りながら作業にあたるということ。もちろん、目で作業の進行も追えるが、加えて、手で素材を絶え間なく触り感じ続けているということは、想像を超えて大きい。 吉本隆明さんが繰り返し述べていた、「手」で書く(描く)ということは「了解」を促す行為なのだと。で、時間性とは、その了解を意味していると。簡単に言うと、表現とは、手を繰り返し動かすことで成立する営為だということ。ここで言えば、手で彫るということは、作業の瞬間瞬間で了解を繰り返すことになる。これ可成りの強度で実存を満たしてくれる。 |
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そういえば、僕が鎌倉彫を職業として選んだのも、作業の進行過程が目で追えて確かめられることに加え、作業そのものが触覚的だったことがあった。適正のない宮遣いは、もって3年。3年間ならば優秀な営業マンでいられる自信はあったが、それ以上は無理って直感で感じていた。もっと具体的で根源的なところで仕事をしている実感の持てる職業でないと続かないだろうなぁと。尚且つ、自分の個性がプラスとして評価される領域がベスト。となると、今の仕事しかなかったので当に天職になる。 とは言うものの、漠然として持っていた自分の生命曲線に沿った老齢期像をコロナが狂わせたのは事実。ただコロナ禍も2年も経つと抵抗しても無駄というか、徒労に終わるのは目に見えているので、最近は諦観の境地。コロナには勝てないと悟っている。 |
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そう、彫だった。 彫をこなすにあたって必須なのは、小刀を始めとする刃物になる。僕が門を叩いた鎌倉彫宗家博古堂は、世界で唯一?の特殊な刀の研ぎ方をした。☝の画像で分かるでしょうか..... これは曲線を彫るときに、タタラを踏まずスムースに刀が進む様になぎなた状に弧を描いているのですが、刀の切っ先の峰を中心に放射状に研ぐことになる。これ生涯会得できない(研げない)同僚や先輩もいたが、僕は得意でした。 刀といえば、修行当時、全てが鋼鉄で出来ているヤスリで自作の刀を作るのが流行っていて、先輩に教わりながら、焼きを入れたり戻したりを繰り返して仕上げたりした。結構手間が掛かるのですが、これはこれでとても楽しかった記憶があります。 彫りの面白さは、こういった道具を揃えたりメンテナンスをしたりすることも含む訳です。他にも砥石などもあるのですが、それはそれで一つの世界があるので、機会を見てご紹介できたらと思います。 |
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ヤスリから作った自作の刀 |
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月次支援金の追加修正データのやり取りが10回以上を超え、これはもうゲームだと割り切ってストレスを避ける手法に変えた。苦行じゃなくてゲーム。 持続化給付金の事務作業は、結局九次孫請けまであったというから、末端の事務作業はダメ出しを出し続けることでペイするくらいの中抜き状況だろうと。。 三十年日本の経済成長が停滞しているのも、日本全体が「中抜きシステム」で回っていることにある。既得権益を死守することが、当面利益を上げる最も効率のいいビジネスモデルになる。これがイノベーションを起こして新しい業態へ移行することを妨げ、結局給与はここ三十年上がらず、新しい産業も生まれない根本原因だ。 |
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ということで、楽しかった彫の作業を終え漆の工程に入った。手間は掛かるが、これはこれで楽しい。ただ冬に入ったのでムロの湿度や温度の調整に気を使う。関連して電気料金も爆上がりだ。冬場は仕方がないのだが。。 今回は、普段手掛けられないお重が中心に彫を進めたが、この仕上げが済んだら次は板もの(Bann)に彫を入れてみたい。 では、では。 |
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