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2009 --2019
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 この七月に「足利」へ転居しました。

僕のマーケットが東京なので歳も重ね上京がきつくなってきたところで転居を決めました。漸く100を超える段ボールも片付き何とか仕事場を確保できる環境も整ってきたところです。

この6月に予定していた第三回厨子展は、新しい木地の調整が難しく、かなりの時間が必要と判断し、ならば「急がば回れ」新天地足利市で落ち着いて作業をした方が能率も上がるだろうということで急遽引っ越しとなりました。決めたら動きは早い僕ですが、とても良い決断でした。
 

足利学校
個展準備と足利市空き家バンク登録、不動産屋との契約、転出/転入届、但馬の自宅の片付け/清掃と引越し準備、電気・水道・電話・ガス等各種契約と書類提出、そして地元金浦のHP(kanaura.com)のサポート・・・これら全てを同時進行させての引っ越しは、今考えると光速に近い速度で頭も身体も動いていたように思います。

転居先足利での荷降ろしに立ち会ってもらった息子は、客間十畳にうず高く積み上がった荷を見て「俺なら何もせず寝ちゃうよ!」と仰る;;何を仰る、この荷の半分以上(50個)は僕が詰めたもの。残りは業者さんが詰めた。今から冷静に考えると尋常じゃない荷だ。

足利学校
但馬金浦の古民家は百年ほど経ったいたようで落ち着いてのんびりと暮らしていた。ただ東京までは一日掛かるし、おまけに雪は手強い。一昨年初雪のあった朝、生まれてはじめてスリップ事故をおこした。お陰で車は全損(保険に入っていたのでワンランク上のミラジーノに乗り換えられましたが....)。それもあって工芸家には適地だった雪国金沢は選択肢から外れた。息子からも「雪国は止めたほうがいいよ。。」と念を押されていたことも大きい。
 
ご近所の多目的広場.....芝です
実は大工牧野さんに逗子の家を立ててもらう前、足利は候補地の筆頭だった。三十年程前、市内の「galleryもみの木」さんで三度ほど個展をしたこともあり、その文化的香りと街の雰囲気はとても気に入っていた。先日銀座へ配達に出掛けたが東武足利市駅からだと上野まで一時間半で着く。「歳をとったら地方都市に住むのがいい」と若い頃聞かされていたが、実際に越してみると合点する。

転居して直ぐ『足利市史』を公民館で借りた。市内には幾つかの歴史研究グループがあるが、残念なことに古文書講座等はない。でも、もう少し地域に明るくなったら古文書を読む郷土史家に出会えるような気もしている。
先日は、行政からのお誘いで県内の美大生が足利市内の古民家を和紙と漆で再生するプロジェクトを覗いてきました。市はアートによる地域興しを試行しているので、地域型芸術祭を研究した身としては、今後市民・行政と協働して地域が少しでも活性化するよう尽力したいと思っています。








古民家再生準備前の美大生.......気合入ってます!
課外授業だったようで、現場を仕切る担当者が二十人ほどの学生に漆かぶれに触れたあと「それでも漆を塗ってみたい人~」と集ったら上下つなぎの完全防備をした女性二人を筆頭に5人の応募。ここでも女性は元気だと。。

作業前、現場作業担当の漆作家から参加者に向けたレクチャーがあり、その中で漆工の歴史が触れられた。「世界で一番古い漆工作物は12600年前のもので日本で発見されました......ですよね?」と僕に振られたので、その発掘と埋蔵品の考古学的考察を研究テーマにしていた京都の美大の岡田文男教授の講演に偶々参加して詳細な資料も目を通していたこと、そして発掘場所が鳥取(これ福井県鳥浜貝塚の間違いでした)であり組紐のように編まれた繊維を束ねた美しい工作物(縄文人ならでは)だったことを添えました。
 山陰夜久野は鬼門でろくな事がなかったのですが、数少ない貴重な収穫の一つがNPO丹波漆企画のこの講演で、そのことが活きて少し救われた心持ちです。
 
 
完成した床(和紙の上から漆が塗られています)













 
 足利に移って早くも二ヶ月が過ぎました。適度に田舎で適度に都会なところがとても気に入っています。仕事や雑事を縫って散策を兼ねたウォーキングは楽しい。桐生川、渡良瀬川を渡って道に迷ったところですれ違ったご老人に道を訪ねたところ「何故こんな田舎に?」と仰る。「いや山陰と比べれば大都会です!」とお応えすると...?

確かに周りを見渡せば遥かな山並みと緑しか目に映らない。耳を澄ませば時折遠くに両毛線の警笛がのどかに聴こえて来る。桐生川は渦を巻いて勢いよく流れ、昨日はコウノトリ!..... 鶴かもしれないが、ゆったり舞い上がってマコモの茂みに身を隠した。
 

ウォーキングコース桐生川堤........この先に芝の広場があります
 
 僕の住む地域は、嘗ては織物業が盛んで大層栄えていたそうで、今でも蔵を持つお宅がご近所には沢山あります。残念ながら数十年ほど前から中国製の織物に押され今では斜陽産業になっています。御殿と呼ばれた住まいも介護施設に換わり、中には廃屋に近い大きな屋敷も見受けられます。

準工業地域なので、お隣は撚糸工場(といっても町工場)で夜間もコンプレッサーの駆動する音が聴こえますが全く気になりません。僕が未だ物心付く前、父は旋盤を使う町工場をサラリーマン兼業で営んでいました。油が滲み込んだ土間には螺旋状の切り屑が転がっていてよく転び「走るな!」と親父に叱られたことを覚えています。なので町工場から出る工作音は、生活の糧を生む尊いサウンドで騒音には感じませんし、鉱物油の匂いは廃油も含め今でも大好きでフェチですね。
 
   
院の頃読んだ資源論の論文に「西陣織工場からでる機械の操業音は地域資源だ」といった趣旨のものがありましたが、僕はすんなり飲み込めました。お隣には、野菜やお魚、手作りジャム等ほんとうに色々お福分け頂きお世話になっていますが、それが理由で操業音を我慢しているわけではなく、僕にとっては「子守唄」でもあり労働のメタファーですね。  
 
ご近所の庚申塔と弁財天石塔
 
もともとジョギングやウォーキングは好きではない。理由は、ボールのないところで無駄なエネルギーを消耗したくないから。でも、こちらに来てからは大分違って、景色も空気もいいこともあるが桐生川や渡良瀬川の堤に沿って歩くことが心地いいのでしょう出掛けるのが億劫にはならない。まあ、あと何年走ったり歩いたり出来るか分からないので、今のうちに楽しんでおこうということだと思います。

画像は、桐生川の氾濫を鎮めるために建てられた弁財天石塔と栃木には比較的多いとされる庚申塔です。旧街道を挟んで向かい合って二塔あるのは何故。。
 
   
 ということで、ここ足利も秋の風が吹き、朝晩は大分涼しく感じられるようになってきました。今週は、新厨子の木地の打ち合わせで会津若松ALTEMEISTERを訪問します。最初の訪問が十五年前ですから、スタッフの方々も知っている方は殆どいらっしゃいません。
 時代も急激に変わって「葬送」も含め仏壇や厨子の有り様も『今』をしっかり捉えたものにしていかなければなりません。伝統的な技術を踏襲する僕と、最先端の技術を保持するALTEMEISTERが、技術の上に新たな理念と協働性をどう確立できるかを今後に向けて相互に確認することが出来ればと願うところです。2019 9月
 
 
渡良瀬川
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