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年が改まって門松も取れる頃になると、いろいろな人々と顔を合わせるようになる。昨年末からの懸案になっていた遺跡の眠る丘陵の開発をしたいという会社の社長との現地協議を年明け早々に実施。 遺跡を壊さないようにしながら、上に盛り土をして、その場所がわかるように標示を残すという当方の考えをそのまま受け入れてもらい、越年していた胸のつかえが降りた。社長とは電話で少し話しただけだったが、エネルギーの有り余るタイプで交渉は難しそうに思えていただけに、実際に顔を合わせてみれば、いささか拍子抜けの感もなくはなかった。 聞けば出身は鹿児島。薩摩川内の隼人である。そして、その土地で土木業を営みながら知多半島に流れ着き、すでに還暦を超えながら年金を担保に金を借りて遺跡はあり、砂防指定や保安林、さらに市街化調整区域といった規制の掛かった土地を大手のデベロッパーから買い取って、建築残土の処分地にしていこうというのだった。 |
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この手の業者にはこれまで何度か会って、社長の自宅まで出向いたこともあったが、意外に話は聞いてくれるもので、今回も最初は怒鳴られて、それから懐に飛び込むくらいの腹でいたのだが、この社長は遺跡のある土地についての対応を熟知していた。 もっとも所詮は金儲けであり、金に目がくらむことも無しとはしない。過度な性善説を採ることは危険ではあるのだが、土壌を汚染するような産業廃棄物を捨てるような行為は、その場では金が入っても、それ以降は営業そのものが成立しなくなるのは各地の産廃問題からみても明らかで、その手の会社はその手の連中がやっている。遺跡への対処などを教育委員会に問い合わせることすらしはずだ。 今度の薩摩隼人の社長は薩摩焼や蘭に委しく、中国人の細君との間に小学校の子供がいるのだが、子供は日本で育てるより中国で厳しくとの方針で雲南省だったかの教育大学付属小学校に入れているのだと。いずれはドバイの学校に入れることを目論んでいるそうだ。さらに、かれは細君の名義で雲南省の山奥にある金鉱山を1千万円で購入したといって携帯に入っている画像を見せてくれた。 |
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世界最高水準の高い含有率を誇る金鉱山ながら、その金鉱石を運び出す手段を設けるのに巨額の費用がかかるらしい。それにしても、こういう人がしたたかに不況の時代に生きているのだと不思議は感慨に浸ってしまった。 西郷ドンや大久保ドンなど、薩摩自慢も聞くことができ、北別府や外木場、木佐貫といった野球選手の名前もドンドン出てくる。社長も郷土に錦を飾ることを夢見ているのであろうか。高度経済成長を支えてきたブルドーザー型の人物であることは疑う余地も無い。常に上昇志向でへこたれない。 翌日、同じ世代の洋平さんが尋ねてきてくれた。山の土をあちこちから採取してきて、いろいろな窯で焼いていたが、中に水の漏れる土がある。その焼き閉める温度や窯内雰囲気について考えているところを聞いて欲しいといって話してくれた。おもしろい。いや話の内容もさることながら存在そのものがおもしろいのが洋平さんで、実にいい。 自分の持っていない種類の窯では、当然に知り合いの陶芸家の窯に入れさせてもらうのだが、その場でのやり取りなども話してくれる。いわく、蝶でも蟻でも蜜のあるところに集まってくるのであって、くれてもいらんようなものを作っていても売れる訳がないと。 |
常滑市民俗資料館 | |||||||||
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どうも常滑の陶芸は蜜が枯れているのだと。その蜜はリーマン・ブラザーズショックなどまったくもって無関係で失われた10年以来継続して枯れ続けているのだと。陶器商の連中に聞いても金融バブルなどまったく無関係で売れなかったそうだ。 洋平さんは年金生活に入り、オッカアから避難する別荘のような工房も隣町に建てて好き勝手に急須やら壺やら虫キングやら作っている。根っからのもの作りである。先祖は美濃赤坂の温故焼の名家、清水石仙である。そして、この石仙は相当に山っ気のあった人物で伊勢の二見経由で常滑に流れ着いたのであった。 石仙を知る人々からは洋平さんは石仙に似てるといわれてきたのだそうだ。納得である。洋平さんの父君、故・有仙氏は謹厳実直な生真面目人物であった。洋平さんは有仙とは似ても似つかない。そして、その陶号も弟さんに譲っているのであった。 |
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常滑市民俗資料館 |
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先祖など持ち出すと遺伝子レベルの話になってしまうので、話は広がらないのだが、もって生まれたものもあるなあと。そして、その日の午後、長電話で有名な老人から電話が掛かった。一市民で納税者という立場を前面に打ち出す彼は役所などでは有名人で、クレーマーに近い扱いを受けている。 ここ5年ほど僕は妙に気に入られて月1くらいのペースで電話が掛かったり、訪問を受けたり、ラジバンダリあるよ???。そして、彼の口癖は700億円を越す常滑市の負債のことだ。日本中いずこも財政赤字に汲々としている。国そのものにしてからが財政赤字が増えるばかりなのだから、地方は押して知るべしであろう。 さらに言えば、かのアメリカ合衆国ですらが世界に冠たる赤字国家ではないか。そして、その破綻の危機がほのかに見えてきたということで世界中の市民感情はどんどんと凹んでいく。長電話氏は常滑が夕張のようになる。その原因は歴代の市の幹部にあるのだと、あれこれインサイダー情報らしきものをほのめかしながら訴えるのだった。 |
往復書簡
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戦後の危機的状況を経験しているのだから、それに比べれば夕張市の置かれた状況だってそれほどのものでもないと言えない事も無い。しかし、周りを見れば自らの置かれた状況が惨めに映ることは確かであろう。さらに、将来に向けての明るい展望が開きにくい状況も戦後の危機とは異なっている。 別の見方をすれば、新たな夢を見づらいほどの豊かな社会を構築してしまっているということでもあろう。爺さんの長電話に付き合ってくれる市役所の職員がいるうちはまだまだ大丈夫ですぜ。「おまえ、おれが旗振りしてやるで市長にならんか」って言われてもねえ。それこそ常滑市の破綻必至ってもんで。 |
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