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 01/17  白川静と「狂」

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この時期になると椀とかお重を手掛けたくなる。四~五年眠らせてある新しいデザインの椀に殷墟文字を入れることにした。

一年近く『源氏物語』の原文を書写してきたこともあって「書く」という営為に以前ほど敷居が高くなくなった。今更だが、生前、吉本隆明さんが繰り返して言っていた「手で書くということが表現の基本だ」ということがよく分かる。ただ、いつもの様に書く段になると、既に知っている文字も再度辞書や書籍でひくし自分の書き残したメモにも目を通す。

今回は「食」に関する文字を中心に、『塩・胡椒・糖・醤』や『舌鼓・満腹』etc 四文字セットで書き込むことにした。
 いろいろ物色していると白川静さんが「狂」という文字の背景に関して触れている箇所があった。「狂」に関して論述するにあたって、氏はミシェル・フーコーの『狂気の歴史』にも目を通していたというところに釘付けになった.... 。
ユリイカ「白川静」特集号(2010年)で民俗学者西川照子氏が触れている様に、白川氏は「狂」という文字の持つ意味が、表層的でネガティブなものとはおおよそ違って、もっと人間の深層に迫る、それこそ「人間」が本来もつ絶対値の大きい意味を孕んでいることを伝えたかったという。僕にはそれが良く分かる。

以前「長谷川泰子」でも詳しく触れたが、「狂う」つまり精神的に「病むこと」だが、それを”表現の亜種”だと僕は喩えた。つまり狂うということは、人間にとってクリエイティブな営為だということ。真に創造的であるということは、際際でボーダレスな心的領域だと思うし、その意味で紙一重なのだ。

白川氏が言うように「狂」の持つ意味は、本来「王」に与えられた特別な霊力を秘めている。元々「王」の字は、「鉞(まさかり)」の象形文字から来ており、自分のテリトリーの外に出るときに、そこに溢れる邪気、悪霊から身を守るために、外に出る前に鉞に触れ、その霊力を借りたとされる。
殷墟文字一般に触れ始めるとエンドレスになるので、ここでは「狂」に限定して話を進めることにします。

そう、白川氏は『文字遊心』の「狂字論」のなかで、「狂」の字を論述するうえでミシェル・フーコーの『狂気の歴史』を熟読されたことは触れたが、他にもアイリスの『子供の誕生』、そして、レヴィ・ストロースの『野生の思考』にも目を通している。

僕は、白川静氏を漢字人類学者と呼んでいるが、それは、漢字への眼差しが単なる語学に留まることなく、広く人間全般に及んでいることにある。

今回の「狂」にしても、それは神の降臨に重なるものであり、日常から非日常へのジャンプを支える特別な営為だ。閉塞し、固着した日常を破壊し、目にしたことのない新しい事態を迎えることは尋常な精神では居られない。気が狂れるとは、そのことを指す。

殷墟文字スケッチ
古代ひとは、気が狂れた人間を神のお告げを受ける特別な能力をもった人として崇めた。典型的なのが巫女さんになる。以前にも触れたことがあるが、「女は狂人になるために、男は女になるために存在する」と言ったフランスの哲学者がいた。これは言い得て妙で、神が女性に降臨し女性が神に憑依される話は古今東西巨万とある。
日本神話の天照大神が女性であり、天岩戸に隠れたという挿話は、今で言えば引きこもりにあたるか…あるいは鬱かも知れない。何れにしろ、精神疾患に被る訳だが、当時は憑かれた状態を今のようにネガティブには捉えず、エネルギッシュで尋常じゃない特別な能力を持った状態とポジティブに捉えていた。

この辺の話は、巨匠白川静氏の『狂字論』に譲って、ここで僕が語るべきことは、「精神的に病む」ことの中に、実は創造性の元始があるということに尽きるということ。そのことが「狂」=「創造的表現の亜種」ということの中身になる。
 
「若」は、神が降臨してエクスタシーになっている様
「亜種」という控えめな表現を選んだのは、一般的に流布されている「狂」のイメージが、余りにもネガティブなので、そこを斟酌した訳です。でも、今回白川氏の『狂字論』の存在を知ってストレートに「狂」=「創造性」と言っておきたい。

もちろん、現代社会にあって精神疾患で悩み苦しんでいる方は多い。特にコロナ禍では。でも、そういった方々の表現としての「病む」という振る舞いの中に、実はコロナ禍=現代社会を乗り超える大きなヒントが隠されている様に思えてならない。

そして、僕らは「狂」のもつ本来の意味と力を取り戻し、また今日的意味を併せて深めることによって、閉塞、硬直化した社会を穿つ力に「狂」を変換したい。
 
殷墟文字「狂」
 
  凡そ10000~25000年前に人類は定住化したといわれている。定住化によって人口が爆発的に増えたことで、社会は一定の規律だったシステムを構築しないと回らなくなった。結果、安定して人口は増え続けて今日がある。一方で、社会全体をスムースに回すために「個」は様々な規制や禁忌を強いられ、その煽りを受け、時には精神的に「病む」ことになる。
 
かつてJ・J・ルソーは「民主主義がスムースに回るうえで人口の適当なサイズは20000人」とした。つまり、ある程度の人の顔が見える人口規模が、民主主義の成立には必須の条件だということ。となると、現代社会は、とうに適当な人口規模を大きく超え出ている。そのことによって「個」は、本来の姿を生な形で表出して生きることを大きく疎外される。よって現代の「狂」は非生産的な心的領域に大きく振れたものになってしまった。
 
     
  だからこそ、敢えて「狂」を正当に評価し、そこに潜在する力をポジティブな方向で導き出すことが必要ではと思う。
 普段は漠然と「狂」(普通でない様)の中に創造性の芽(原始)があると感じていたが、今回白川静氏の『狂字論』に触れ一層その思いが強くなった。そして、そもそも何故「狂」の字に「王」が入っているのかだが、それは「外」に出る際、悪霊や邪気から身を守るために霊力があるとされる「鉞」=「王の字の初文」を踏むことから発祥した文字になる。

昨年暮れから新年にあって、早速新しい椀等に、新たな気持ちで殷墟文字を書き込んでいる。以前より、解放され、より自由に描ける余裕の中で。

巨匠白川静氏に感謝!
 
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