「古典雲紋」 |
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彫りが欲しいな〜。。。 SAVOIR VIVREのオーナーからの断ってのリクエストに応えるため、ただ今「彫り」のある作品を試作中であります。 先日、落書きシリーズの仕上げの作業を手伝う息子が、錫の研きをしながら・・・・「おとうさん、これ時間掛かりすぎで割りがあわないんじゃ?」とおっしゃる。。 そりゃ〜そうなんだが、この仕事は生産性を考えると何も作れなくなるんだから、世の中の常識を一旦リセットしなけりゃやってらんね〜よ・・・と応えるが、こちらもプロなので大まかな市場にあわせた作品の価格設定はしなけりゃな〜と、彫りに掛かる時間を計測してみた。 2時間弱。仕上げをどうするかもあるが、これなら二万円程で店頭に出せるのでは・・・・と考えている。 価格を高く設定して、しっかり彫りを入れるという方法もあるのだが、景気が底を打ったかどうかも定かでないこの時期、そう高いものはギャラリー側も扱いづらい。特にSAVOIR VIVREは、毎日の生活に潤いを・・・・というコンセプトで工芸を扱っているので、何気ない日々の生活を大切にするという意味でも「殿様工芸」は似合わない。 |
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(「落書き錫研き折敷」......photo by sinajina) |
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とはいうものの、僕は鎌倉彫出身なので、その作風は「霽れ(ハレ)」を扱うもの。日常の雑器とは趣が違う持ち味が得意技だ。これは、長短併せ持つのだが、折角の長所は生かしたい。何気な毎日に小さなハレを持ち込むことで、凡凡とした毎日に密度の高い時間や空間をちょっぴり演出して欲しい。 ただし、何でも彫ればいいというもんじゃない。ただのダサイ鎌倉彫になる危険は大いにある。木という素材に「彫り」という手法を加えるには、ある条件があると僕は考え続けて今日まで来ている。 その条件とは・・・・・・ コンテンポラリーな下部構造の素材にコンテンポラリーな上部構造の意匠(彦坂尚嘉) 彦坂尚嘉さんは、30年ほど前、横浜にあったBゼミという現代美術を教える学校で、そこの夏期講習を受けた際、一番面白かった講師だった作家です。 簡単に言うと、その時代が生んだ素材を使用し、そしてその素材を生かした図案を施す・・・ということになります。 「美」というものが成立するには、素材とデザインがマッチしているのが理想で、その意味で木彫が矛盾なく映える図柄は、木という素材を最もよく知り使っていた時代のものがどうしても一番ということになる。木材は今でも僕らの周りのインテリアやエクステリアに使われ溢れているが、それでも金属製品やプラスチック製品が最もコンテンポラリーな素材であることは確かだろう。 木材を使ったスポーツカーを万が一作るとしたら、今あるものとはまるで違ったデザインになったはずだ。スチール以外の丈夫で軽量、尚かつ燃えにくくコストも低く可塑性も高い素材がもし開発されたとしたら、クルマのデザインは今あるものとは可成り違ったものになるだろう。 |
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「宝相華紋彫り」 |
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さて、彫りのある椀だが、木材に浮き彫りを施すためのデザインは、先程の理論で言ってもやはり古典文様が一番据わりが良いということにどうしてもなる。 僕がよく使うのは、宝相華で、飛鳥から奈良・平安に至る時代の正倉院に代表される工芸で、特にその普遍性から言って図抜けた美しさをもっている。 宝相華は唐草文の一つで、牡丹(ぼたん)や蓮(はす)、柘榴(ざくろ)などの植物を部分的に取りいれ、唐草(からくさ)風に表現し、宝相華という空想上の植物で、実在する花ではありません。宝相華は吉祥の花、文様として扱われ唐の時代の中国で考案されたといわれていて、日本では正倉院の宝物の文様に見ることができます。 それからとても装飾的な雲紋も好きでよく使うが、何処にあった文様なのか今では忘れてしまった(上段の画像)。 この雲紋は、理想郷のある天空を象徴する図柄の一つだが、単なる雲のデザインに留まらず更に装飾的に深めることで深遠なハレを演出する効果をもっている。数千年に及ぶ日本美術史の中でこれほど美しい雲紋は他にない。好きな雲紋は沢山あるが、これは!と勝負するときはどうしてもこの雲紋の力を借りてしまう。 |
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微かに残る記憶を辿ると・・・・・30年近く前に見た美術書に紹介されていた正倉院のコレクションの中にこの雲紋があった.......と思う。恐らくこの図はオリジナルではなく、バランスを整えるために僕が手を加えたはずだ。それにしても美しい。仏教美術という当時最も最先端の(コンテンポラリーな)文化は、その中にその時代の突出したエキスが濃縮されて盛り込まれている。 残念ながらこういった古典は、時代の中で消えてゆく運命にあるのが必然だ。その時代にはその時代のデザインがある。ただ、僕ら日本の国が持つDNAには、確かなものとしてこれらの仏教美術が沈殿している。それ故、現代に生きる僕らの古層に、千年以上前のデザインを上手く演出さえすれば、そのDNAを共振させることは可能だと僕は信じてこの「雲紋」を使っている。 これに併行していくつかの仕事も進んでいます・・・・・ わざわざ大阪から銀座厨子屋さんまでお越し下さり「唐草紋厨子」をお求め頂いたことを受け、その化粧直しが本日済んだ。銀製の丁番を手直しし、一部磨きを掛けコーティングをし厨子底裏面の細かな疵を取り除き摺漆を仕上げ直した。これで安心して納めることが出来る。 |
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「唐草紋厨子」 |
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それから着々とテーブルの制作も進行している。ちょっと前敬愛する大工牧野の仲介で川喜田半泥子のお孫さんから頂いた半泥子も使ったであろう蚊帳が、運良く長さ2.5m以上あったので息子のサポートを受けながら全面に布着せ。梅雨の時期は漆の乾きも良くお陰で仕事もスムースだ。 |
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(木固め) (半泥子の蚊帳) (布着せ.....糊漆を伸ばしているところ。。) |
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と言うわけで、今週は、彫り見本を試作し、より自分らしい作品を数多く世に出したいな〜と思っておる次第です。そして、段々消えかかっている装飾的な日本工芸の伝統美を再認識して頂けたらと願いつつ取って置きの図案を選りすぐっています。 請うご期待。 pcの調子が今ひとつで、ひやひやの更新でした〜〜。。。 |
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(恵比寿紋) |