田舎暮らし
 
常滑レポート index
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2005~2012  常滑レポート index
かれこれ30年ほど前の事になるのだが、常滑に戻って仕事に就き、職場の仲間に誘われてテニスのサークルで毎週のように楽しく体を動かしていると、高校の先輩にあたる同じ村の中澤さんから、「中野、お前消防に入れ」というお言葉。

それから3年ほどだったか村の消防団の活動に加わった。最後は第2分団長という肩書きまで頂戴して、随分号令の練習などさせて頂いたものだ。

やがて、消防団も終えて結婚し、生まれた村から離れて今の仮住まいの地に落着く。子どもが産まれ子育てに追われている頃、厄年が回ってきた。住まいは移ったが職場は元からの生まれた市にある。同じ村の小学校以来の同年で集まり、会食し、大晦日の深夜から元旦の初詣客への振る舞い。還暦の先輩方と伊勢神宮に詣で、お払いを受け、地元の小学校に記念品を贈りなどなど。
 
   
親元に暮らしていれば春・秋の一斉清掃や五人組制度のような隣組が自治制度の末端にあり、神社の清掃から回覧板、葬祭の手伝い、といっても会葬に立ち会う程度だが、ゴミ出しの監視などの役割を受け継いでいたのであろう。

同年代の同僚は別の村だが字議員とかいう役職を仰せつかって祭礼の雑用や字有地の草刈などに駆り出されている。そして、念仏講と農耕儀礼が習合したような民俗行事の役員になるのではと戦々恐々としているのだった。

もうじき定年ともなれば副区長・区長という大役が回ってくる可能性も高い。これは、市会議員なみの仕事が与えられる役割だ。やがて、檀家総代や氏子総代、老人クラブ会長なんてのが待ち受ける。
 
さて、今実家は老母が一人で暮らし、最低限の村のお仕事を勤めている。そろそろ帰るべきなのであろうが、かれこれ四半世紀も村を離れてアパート暮らしをしてしまうと、地域共同体の規制の中に入っていくのが何とも億劫である。

ドイツ中世都市では封建領主の支配から逃れて都市で1年と1日を過ごせば、領主からの拘束から開放された。都市の空気は自由にすると言われたのだった。もっとも、その後の重商主義政策下の、さらには産業革命期の都市の大衆が受けた過酷な労働は悲惨といってもよいほど過酷だったようだ。ああ無情、レ・ミゼラブルなんだね。

所詮は生きていくために何がしかの役割を個人個人が受け入れて行かねば社会は成り立たないのであろう。誰かが逃げれば誰かに集中して役割が回っていかざるを得ない。ただ、それを当たり前のことと受け入れることが、一度自由を知ってしまった身にとっては面倒なことなのである。
 
 
そして、多くの村々から若者は都会に出て行き、都市の自由を肌に感じている。便利で快適な都市生活を捨てて戻るほど田舎に魅力はあるのだろうか。田畑があれば、土いじりなどの楽しみがあろう。しかし、現実には農地は放置されている所が少なくない。土地改良事業で整理された農地は本来、個人の趣味で耕作する場ではないのだ。

実家の隣組でも、少しづつ家が空き家になってきている。我が家も我が子の代になれば、この家を維持していく可能性は薄い。時代はこうして動いていくのであろう。地域の歴史を見直すなどという機運も近年はまったく消えて行きつつある。一つの段階が終わったのだろう。

自分の出身中学で校長を勤めた人生の先輩と話していると先生の村ではかつて名家として通っていた家の敷地が何箇所か売りにでているという。後継者は村を出て都市部に居を移してしまったのだった。
大きな時代の転換期に入って、好むと好まざるとを問わず再構成の段階に至っているように感じる。地域社会のあり方も、このままでは維持できないのではないだろうか。さらには地域の伝統文化も維持しがたい状態に近づきつつある。もはや末法も過ぎて法滅の段階に入っている。

おそらく、維持できないものは消えて、新たなものが立ち上がってくるのであろう。なにせ、ただじっとしてはいられないのが人間だし、社会を維持していくには、それなりの労力が必要になる。

伝統工芸の世界は、この田舎的世界の中にある。数々の仕来り的約束事を長い年月、繰り返しながら、その中にある安定的な美を産出するシステムとして。そして、その美は維持するのも、消費するのも地味で面倒なところがある。

一方で、都会的な部分が現代アートとして伝統と対峙し、都市の祝祭空間を演出し、矛盾を告発する。そして、それは一過性という不安定な世界でもある。その中で活躍するのは限られたタレントとなるのもやむを得ない。人それぞれに相性というものはあるのだろうが。
 
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