(古典椿紋香合)

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二年がかりで古典椿紋香合を手掛けている。



この古典文様に惚れ込んだのは、30年以上前の鎌倉彫の修行時代だった。当時、アーキペンコやザッキン等のキュービズムの彫刻に耽溺していて、特に彼らの凹としての空間の捉え方に強く惹かれていた。



何故、日本の伝統工芸を学ぶものが、近代西洋彫刻に強く影響されるのか・・・・



70年中頃、コンテンポラリーな美術を牽引していたのは、欧米の美術。伝統的美術に出自をもつ鎌倉彫を学ぶ者として、手本を欧米にもつのは屈辱的ではあったが必死で近代化を完遂しようとしていた当時の日本にあっては、それなりの必然性はあった。
 特に、”彫り物”としての”装飾”が、表現の主軸にある鎌倉彫は、ミニマルアートやコンセプチュアルアートがベーシックな表現として定着し始めていた当時の日本では、やたらキッチュで垢抜けない前近代の亡霊を、背後霊のように背負っているような負い目を持っていた。



それでも、何とかして”洗練した鎌倉彫”を提案できないものか・・・・・「迷ったときは、古典に還れ」と、おやじ(鎌倉彫宗家・後藤俊太郎社長のこと)から聞かされていたことも手伝い、古典資料を夢中で漁っていたとき出会ったのが、今回の「古典椿紋」だった。

(『椿紋笈』・・・・・鎌倉国宝館蔵)







鎌倉彫の古典資料の中で、何とかモダンに処理できそうな(モダンに焼き直せそうな)ものが、唯一笈に施された、凡そ椿には見えない『椿紋笈』に彫られた花の文様だった。



実際に、この文様を作品化したのは、それから10年ほど経ってからだった。↓↓↓↓

http://urushi-art.net/urushi/muromachi-tubaki-ju/01.htm



今回あらためて、この古典文様を手掛けるのに当たって、もう一度資料に目を通してみたところ、資料を編纂した灰野昭郎氏の解説には・・・・繊細で凝った図案ではあるが、力強さに欠け、技巧に走りすぎたきらいがある・・・・とあった。

確かにその通りではあるが、それは、この作品の完成度の低さにあるのであって、そのコンセプトは、数ある笈のなかでも頭抜けてチャーミングに僕には見える。こんなにモダンな構成は、当時十分に理解されなかったのではと思う。なので、作者は、この作品を自信を持って繰り返し深めることはなかったのではないか・・・・・。



もっと、隅々まで気を使い、細部にわたってきっちり完成度を上げて図案化すれば、普遍的で今でも通用する意匠に成りえる...................。そんな思いをずっと持ち続けて今日まで来ている。もっと言うと、誰も顧みることのない”未完”のこの意匠を更に深めることが出来るのは、今では僕しかいないとさえ思っている;;;
































この『椿紋』は、資料には詳しい製作年代の記載がない。恐らく趣は、まったく異なるが、笈が数多く作られた室町時代のものではないかと推測される。

総じて笈に施されている”椿紋”は、概ね抽象度が高く表現されている。中でも、この椿紋は、他の笈に施された椿紋に比べ際立って抽象度が高い。どういった経緯から意匠の抽象度を上げたのか、その理由は分からない。下絵を着物など他のジャンルの意匠を取り入れたことも推測される。何れ、当時の時代背景を詳しく繙き、その特異さの出自をつかみたいと思う。



そして、灰野氏に「凝った図案」と評された椿紋の構成は、凸凹(プラスとマイナス)の彫りの組み合わせが絶妙な示現寺の笈の椿紋ほどではないが、明らかに凸凹なる浮き彫りの妙が効果的で、かつ何種かの花の文様の組み合わせも豊かに表現されている。そこが、単なる椿紋と異なる,謂わば次元が一つ高い表現に見えるところである。





(重要文化財 椿文笈部分 示現寺蔵)

上図の椿紋の笈は、修行中特別の秀作として教えを受けた重要文化財である。

この椿紋も極めて抽象度の高い意匠になっている。
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実は、先に出た30年以上も前に資料(紙媒体)で”惚れ込んだ”椿紋笈に、偶然神奈川県立歴史博物館で、10年ほど前、実物に再会?し、更に深く惚れ込んでしまった。実物は、経年劣化のため漆は剥奪し、最早元の塗りがどうであったか表からは分からない程であった。

資料によると、元々は、花びらや葉は、それぞれ朱や緑に色分けされていたとされている。その後劣化が激しいため、全面弁柄漆で塗り込められたとされている。なので現状は、”侘び寂び”の世界に変質していた。それ故、返ってその意匠のコンセプトがノイズなしに透けて見ることができた。
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六百年の時を隔てて、この意匠は、まだまだ進化し続ける予感がする。素朴でいてモダン。そして、温かみのあるチャーミングな香合に仕上げたいと思います。完成の暁には画像をアップしますので乞うご期待!