(拭き漆用のボロ)







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01/15 摺り漆
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今日の作業は、拭き漆という工程です。

いわゆる鎌倉彫は、輪島塗に代表されるような漆塗りとは大分違った塗り方をします。彫刻があるため、塗面が凸凹であることから、特殊な塗装法が生まれたものと思われます。

一般の漆塗りは、塗り立てといって、仕上げに上質な漆を特殊な刷毛で塗り、乾いた段階で仕上がりです。
 鎌倉彫の場合は、この仕上がった塗面を、更に藁たわしで水砥の粉を付けながら艶を消していきます。そして、引き続き透き漆を塗り、布(ボロ)で拭き取り、お終いに彫刻面に陰影を付けるため「煤玉」という鎌倉彫特有の古び粉を使い艶を上げます・・・・・面倒臭い;;;

上の画像は、その拭き漆(鎌倉彫の場合「摺り漆」と呼びます)の際使う所謂ウェス(ボロ布)です。
 子供が未だ小さかった頃の衣類は、肌に優しく、仕上がり間近の漆器にもぴったりです。特に、使い古したオムツや肌着は上等品です。


(曜介 一歳の端午の節句)
実は、段ボールからはみ出たボロは、長男曜介が未だ乳幼児だった頃、そして、次男耕介が乳幼児だった頃と二代に渡って身に着けていた「つなぎ」であります。


段ボールの中には、ボロと一緒に「思い出」がたくさん詰まっています。ここぞ!という時、とっておきのオムツが、国宝級の作品に仕立て上げます。

全てのボロに思い出が張り付いていて、もう涙もんです;;;

漆を拭き終わった後、更に定盤(うるしの作業台)の上を拭くボロとして活躍し、やっとその使命を終えます。


「拭き漆」という工程は、まったく日の目を見ない作業で、端から見てもパッとしない じみーな 作業で、肉体的にも疲れるし、修行中、誰もが嫌がり、当時も「今日摺りかよー””」といった感じでした。

しかし、この工程で、作品の善し悪しが決まります。落ち着いた品の良い艶に仕上がるかどうかも、この段階に掛かっています。

(うるしベラと摺り漆用タンポン)
こうして仕上がった作品の深みのある艶は、「うるしの艶」ではなく「うるしによる艶」と言うことになりますでしょうか。


でも、やっぱり手間ばっかり掛かった生産性の低い、あまり儲からない仕事になりますかね。トホッ。。。

京塗りでもなく、輪島塗でもない、鎌倉彫から生まれた「あずま塗り」は、更に地味~な工程を経て時間を組み入れた古びを付け仕上がってまいります。
僕は、鎌倉彫宗家博古堂での修行で幾つか大切なことを学びました。
中でも重要なことは、必死で彫り上げる『彫刻』部分と、全く彫刻のない、所謂『地』の部分が、全体の構図としては、等価である・・・という事実。

それは、図柄の配置などにも言えますが、実は、『柄』と『地』それぞれの質にも同じことが言えてしまいます。

錫の蒔絵で仕上げられた蕪の図と、一見何の変哲もない錆地(漆と水砥の粉を練り上げた、本来下地用の漆を特殊加工した塗面)が実は、価値として等価であること・・・・この視点を、僕は、鎌倉彫(正しくは鎌倉彫宗家博古堂=後藤彫り)から学びました。

(pm 12:20)
さて、初の大阪での個展を来月に控え、その準備に追われる毎日です。

指鉄砲で『パーン』と撃つ真似をすると、ほぼ例外なしに撃たれた真似を返すという、人が生きる上での深い「知恵」を身に着けているという大阪人。

『笑い』が、生きる術として血肉になっている大阪の人々に会うのが、今から楽しみです。。。