銀座での厨子展が、好評のうち終えることができました。
(info にありますよう、引き続き会場を会津若松に移して開催しています)。

終わってみると、あっけない。この感じ方は、僕がそれなりに入れ込んだ証拠でもあるのでしょう。

僕の予想を超えて、画廊に足を運んで下さった方々は多く、そして、そのほとんどの方が、いつもの漆器展にいらっしゃる方々だった。

「今回は厨子展なので、抹香臭いイメージをもたれているだろうから、いつものファンの方々は、大方来ないだろう......」、「現代は、日常から死を遠ざけようとしているし、そういった死の問題を避けて厨子はありあないし.....」

(「落書き錫研き厨子」)
......でも、僕の表現を広げる意味で、とても重要な個展になる予感がしていたので、いつもの個展を楽しみにして下さる方々には、是非来てほしかった。

そんな僕の些末な不安を払拭するように、連日、いつもの個展を越える数の方々がギャラリーに見えた。このことは、僕自身が世の中の規範や常識を大分低いレベルに設定していたことを意味するので、ちょっと恥ずかしいような、申し訳ないような気がしている。

別の言い方をすると、僕のファンの方は、僕のようなマイナーな作家の作品を、お金を出してお買いあげ下さるのだから、一般の社会通念に汚染されている方々であるはずがないのだ。恥ずかしながら今回そんな事実にも出会えた。

(「落書き錫研き厨子」)
僕の認識だと、嘗て菅谷規矩雄が言ったように「現代人の大半は、死期を間近にした老人を、病院に入れた段階で葬式を済ましちゃっている」と確かに感じることも多い。

『死とは忌まわしいもの。だから、日常から隔絶したところへ収め封印する』、そんなイメージも払拭したかった。

厨子が、単に「亡くなった方の遺品や象徴を安置し収める器物」ではなく、僕らが生涯「居なくなってしまった」という事実を受け入れられないように、それはそれとして、分からないことは、分からないこととして、そっとしておき、ふとした日常の中で、亡き人と『語り合う』ことを《仲介をするもの》となることを僕は願っている。

であるから、器物としては、日常に埋没してしまう方が理想だ。

仏壇然としているのではなく、出来ればお洒落で、普段はオブジェのように、現代の生活空間の中で、そっと息づいているような......そして、過去のいろいろな思い出に浸りたいときには、その扉を開け故人に語りかける......そんな厨子があったら素敵だと思っている。
お父さん「我が儘」という言葉も好いよ。。。

うん。

息子に仕事を手伝ってもらっていたときに、『古文字厨子』に入れる殷墟文字は、何が適当か思案していると、何気なく息子が取り上げた「我が儘」という文字が、人間の業を背負っていて、まさに人間臭くてぴったりに思えた。流石、仏教学科出身。

僕自身、厨子に入れる文字は、なるべく此岸(この世)の雑多な日常の一こまを入れる方が好いと決めていた。彼岸(他界)のことは正直分からない。なので、故人の癖だったり、好きな色だったり、食べ物だったりを選びたかった。今回は初めてのことだったので、ちょっと勝手が分からないこともあり、多少遠慮したが、実は落書きもしたかったし、音符やハートも入れたかった。

今回の『古文字厨子』をお求め下さったY氏は、特にハートがお好きな方なので、ちょっぴり残念に思っています。やはり、どんなときでも自分の気持ちに正直でなければなりませんね。

OORAKA 春夏秋冬 時 元気 象 遊 旅 虚無 祷 鷹揚 嘉etc

宇宙の「万象」や、僕らの外側に僕らの意識とは無関係に流れているだろう「時」、そして、いろいろな意味での「旅」という文字は早くから思い付いていた。でも今後、もっと人間臭い、生臭い文字があったら是非使ってみたい。「飲んべえ」とか「好色」っていうのもありかな。「暢気」「浪費家」「けちんぼ」「放浪癖」「お人好し」「浪漫」なんていうのもいいかも知れない。「おっちょこちょい」なんていうのもいける。
今だったら愛犬の名を希望する方もいるかも知れない。すべて「あり」だと思う。

(Mushikui-Zushi)
よけいなことは何も考えず、普段はオブジェのように、人に気付かれずに置けるものというコンセプトも用意した。
で、考えついたのがMushikui-Zushi。まったくの「無」で、重たい思い入れも何もない。そういうのもあっていいと思っている。

(唐草獅子厨子)
そんなにあっさり過去とおさらばするなよ・・・・という声も聞こえてきたので、ほんのりと仏壇の香りが残っているのもあってもいいんじゃないかと「獅子唐草厨子」も作ってみました。銘木(欅)は漆ののりもよく、手触りも格別です。
 新しい厨子について >>>>>  詳 細
 厨子についての断想(一)
 厨子についての断想(二)
 厨子への想い
 up 『六本木での厨子展』