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漆工芸2020 <工芸の現在>と銘打って書き始めたこのページですが、履歴を見ると最終更新が2012/06/04とあるので八年も前になる。丁度、僕が逗子を離れ但馬に居を移し実質工芸界から離れ、大学院で地域芸術祭やボーダレスアートについて研究したりすることで「何か」を埋め合わそうとしていた頃に重なる。 振り返ると八年は大きい。工芸界も大きく変わり、特に漆の世界の凋落は目を覆うばかりだ。昨日久し振りに福井の漆屋さんに牟呂の件で問い合わせたところ、意外にも貴重な漆業界の「いま」を聞くことができた。 大分以前から日本で使われるウルシの凡そ98%は中国産で、平成の始め400トンだった輸入量が今では36トン(昨年のデータ)で1/10以下ということ。そして、来年度は更に減るという。単純計算で、漆工芸に従事していた人員が1/10以下になったということにもなるので、産地の凋落は当然で後継者も僅かということになる。 漆工芸に従事する人材が減っているということは、即ち消費者も減っているということを意味するので、漆に関しての資料をネットで検索してもそれほど新しいデータはヒットしない。林野庁でさえ「国内産のうるしは、良質なことから文化財等の修復用として需要は根強いものがあります。平成26年の生産量は1,003kgで、対前年比4%減となっています。また、国内消費量の98%は輸入品が占め、ほとんどが中国産となっています。」......この程度です。 |
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特用林産物需給の推移 data |
国産漆の産地・主な漆器の産地うるしの國・浄法寺㏋より |
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国産漆増産は絵空事。江戸時代から日本は漆を輸入していた(森林ジャーナリスト・田中淳夫) このところ国産漆に関する問題が表面化しつつある。 というのも、文化庁が、国宝や重要文化財の建造物の修復に使われる漆は、来年度から下地も含めて国産の漆を使うようにと通知したからである。しかし、国産漆の生産量は、消費量の1~2%と言われており、文化財にかぎっても必要な量が確保できそうにない。 ことの発端は、日光東照宮だったように思う。修復工事が終わって3年目にして塗られた漆が剥げだしたというのだ。ほかにも各地で建物の修復工事後わずか数年にして塗料が剥げる事例が相次いでいる。その理由として、漆塗りの部分を国産漆ではなく中国産漆を使ったから、としている。 中国産漆は、主成分のウルシオールが国産より7%ほど含有量が少ないという。これを機に文化財の修復には国産漆、という気運が出てきた。たしか小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長の提言もあったように記憶している。 それはともかく、私は「日本の漆は中国産漆より品質が高い」という発想に疑問がある。仮に中国産漆にウルシオールは少なめだったとしても、それで50年持つはずの漆塗りが3年で剥げるというのは怪しい。 そもそもウルシノキは中国原産で、日本には縄文時代に持ち込まれたものだ。つまり同種なのだ。 加えて日本が漆を中国から輸入するようになったのは、最近のことではない。江戸時代中期(元禄時代)から行っていたのだ。つまり元禄文化の華が咲いた頃から、中国産漆なくして漆工芸は成り立たなかったのだ。そして明治になると、すでに漆消費量の8割が中国産漆になった。ほか東南アジアなどからの輸入も合わせると、約9割が輸入漆である。 その頃の漆を使った工芸品は、3年でダメになったか? 加えて気になるのは、漆の生産方法だ。ウルシノキの樹液を漆に変えるまでの手順に両国で違いがある。 日本は今では殺し掻きと言って、10数年育てたウルシノキを数カ月樹液を掻いたら、その後は伐採する。また木に傷をつけてしみ出てきた樹液をその都度素早く掻いて採取する。 だが中国では養生掻きと言うが、次の年も掻く。当然翌年の樹勢は弱まり、樹液成分にも影響がある。しかも樹液を流れ出させて容器に受けるだけだ。しみ出てから採取まで時間が開くので劣化しやすい。 樹液を加工して漆に仕上げる工程にも違いがある。詳しくは記さないが、日本へ原液を輸送する過程で腐敗して劣化してしまうものが多い。混ぜ物をする話も聞いた。ひどいものは水飴を加えて増量しているというのだ……。 実際、輸入された漆の原液を見たところ、かなり臭かった。本物の漆は爽やかなニオイがするというのに。しかも濁った灰色をしていたが、あれは本物の漆の色ではない。 つまり、国産漆ならなんでもよいのではなく、樹液の採取方法や流通と精製法をよくしないと質のよい漆は生産できないわけだ。 そのためには漆掻き職人の養成が急務だ。漆の質は、漆掻きの技術によって変化する。樹幹への切れ込みの入れ方が悪いと木を傷めて樹液も水ぽくなる。また漆にかぶれない体質でないと難しい。それなのに収入が低く、半年間の仕事なので常雇いにはならない。だから後継者も少ない。 さらに漆掻き特有の道具も、今では作り手がいなくなった。とくに樹幹に傷を入れるカンナは特殊な形状をしており、それを作れる鍛冶技術の保持者は、現在全国に一人しかいないのだ。 さて、文化庁の通達どおりにするには、年間2トン以上の国産漆が必要という。しかし2015年度の漆生産量は、1,2トンに達しない。まずウルシノキを増やさないといけない。だがウルシノキは陽光を好むので、疎林に仕立てないといけないし、風下に立つだけでかぶれると言われるから近隣の住人からあまり植林は歓迎されないだろう。また、ある程度平坦な土地でないと漆掻きはできないから、場所の確保が大変なのである。 このように考えると、いかに「国産漆の増産」が絵空事かわかるだろう。 本気で増やしたければ、今から年間1万本以上の植林をしなければなるまい。植えて漆掻きができるのはざっと15年後だが。漆掻き職人の待遇をよくして仕事としての地位を高める努力も必要だ。さらに道具の生産も……。その前に、中国産漆の生産方法や流通を改善してもらって品質を上げる方が有効かもしれない。2017/9/22 |
以前、こういった状況を予測して、中国産の漆値も高止まりして日本産漆の1/5~1/3で推移するのでは…と述べたが、そう外れていなかった様に思う。その時にも触れたが、現地中国の漆掻きに従事する内陸の山間地に暮らす人々も、やがて低賃金で雇える人員を求めて内陸へ内陸へと進出する企業に吸収され、3Kである漆掻きなど見放すだろうと。昨日お聞きした漆問屋さんの話では、漆掻きの仕事からの離職率は想像を超えていて、つまり工場の進出は、僕らの予想を遥かに超えるスピードであっという間だったということ。 …となると←森林ジャーナリスト・田中さんが指摘する「国産漆の増産の前に、中国産漆の生産方法や流通を改善してもらって品質を上げる方が有効かもしれない」という言い回しも絵空事になってしまう。よって中国産漆の輸入量も、その質も大幅に落ち、益々人々は漆器から離れ、漆工芸にとっては負のスパイラルに入ってゆくのだろう。 |
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うるしの國・浄法寺㏋より |
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