右の画像は、バブル崩壊前の日本が未だ元気だった頃(1988年) SAVOIR VIVREでのDMです。作品は、スタジオを借り切って時間を掛け撮影するという、実にもって贅沢で恵まれたものでした。

『落書き錫研き椀』もDMの椀と同じ木地を使っています。
80年代終わり頃からずっと手掛けているもので、当時からそこそこ人気がありましたが、ここへ来てぐっと人気は高まった様に思います。
 結構手間が掛かって割が合わないのですが、やっていて楽しいのと、この椀を好いと思う方と出会うのが楽しみでもあります♪
 落書き錫研き椀


落書き 1 落書き 2
落書き 3

(『線刻はーと落書き金彩椀』  
1988 年 DM
Direction:SAVOIR VIVRE
photograph: Hiroya Kaji
Printing:Beniya KIkaku

size: φ14× h 11.5 cm
finish:火山灰etc  + 錫高蒔絵
木地:栃材

落書きシリーズの一つです。

錆仕上げのものと並んで、この錫研き(高蒔絵)も無意識には、コンクリートの打ちっ放しの建物と純和風の建物、どちらの空間でも、すっと馴染む漆器を........という意図から作ったものです。

江戸から明治を経て昭和の初期に至るまで、辛うじて持ち続けていた様々な庶民の祭事や法事等、季節の折々に沿ってあった歳事に合わせた漆器は、近代化を遂げた現在、特に都市近郊では、地域共同体も空洞化し、人が寄り合って会食する機会もなくなり、それまでの用途とは違ったスタイルをもって再生しなければならなくなりました。

そんな漆器の原風景を失った今でも、僕らの古層には、きっと漆器のDNAは生き続けているに違いない......そういった想いから僕の漆器のスタイルは出来ています。ある意味、乾いた人間関係のなかでも人と人とを取り持つメディアとしての器であったり、また、自分のルーツに触れるきっかけを作るものとして漆器は、その存在意義はあるように思います。



錆仕上げ:京都山科の砥の粉を水で練ったものに漆を適度に加え、乾いた後、肌を整え更に漆で擂り固め、そのあと古色を付ける仕上げ方(企業秘密)を呼んでいます。僕以外に手掛ける作り手がいないので東塗と言っても良いかも知れません。

錫研き(錫高蒔絵):火山灰や錆び漆で柄を付けて遊び乾いたあと、さらに呂色漆(酸化鉄を混ぜて漆黒となった漆)を塗り、乾かないうちに錫粉を蒔き、乾燥後、炭で研ぎ出し磨き上げる手法。