那智石ペーパーウェイト(1981年作)



素材:那智石(自然石)
仕上げ;摺り漆、箔押し(ちぎり)・落書き(引っ掻き)
1981年、『工雅』さんで初めての個展をもった。現在も変わらないが、当時も原始美術から多くのインスピレーションを得ていた。そして、『落書きシリーズ』の源泉がここにあった。

 当時、暖簾分けもなく、鎌倉彫業界で作家になって成功した者もない現実のなかで、工芸界でどう生きていったらいいのか暗中模索、信じられるのは自分の感性のみ・・・そんな思い詰めた姿勢で制作を続けていた。新しい表現に敏感であることと同時に、表現の原点を確認したいという欲求も強く、日本の縄文や弥生はもちろん世界の原始美術を貪欲にあさっていた時期でもあった。

たったひとつの自然石が、もしかすると46億年という地球年齢を経過して出来た『かたち』だと思うと、そこに途轍もなく厚みをもった必然性と整合性故の美しさを感じ魅了されていた。
 そんな完成された自然石に落書きをすることは「蛇足」であることは分かっていたが、とにかく記録(痕跡)を残したいという想いから、鋼で落書きを刻み込んだ。