東京が好きだ              

 秋晴れの中、『小倉遊亀展』(東京都近代美術館)へ出掛けた。

 天気が良いこともあって、東京駅から近美まで歩くことにした・・・・・・。

 東京駅舎は、いつ見てもいい。

 この駅舎(赤煉瓦)を見ると、ふとタイムスリップしてしまう。

 それは............................

 僕が小学生の頃だから、今から40年以上前のある日、いつになく親父が妙に真面目な顔をして怒り始める。

・・・・・何だろう?と、しばらく親父の説法に耳を傾けていると、どうやら国鉄(現在のJR)が古くなった東京駅舎を解体し、モダンな八重洲群に沿った町並みにすると言い出したことに対して怒っていたのだった。

 結局、当時としては珍しく反対運動が起きて、一部の解体はあったものの、本体は改修して残すということで決着し今に至っている。
 お陰で今日も、駅前のビルの一角を陣取り、赤煉瓦のスケッチに筆を走らせている元気なおば様達がいる。

 東京に本店や支店を置くことで、その心意気を表していた大手町・丸の内の各銀行のビル群は、東京駅前再開発で、幾つかのビルが大きくシートで覆われていて、屋上には大きなクレーンが設置されていた。

 土曜日ということもあって道行く人も少なく静かだ。

 そう、未だ小学生だった頃の日曜日、残っていた仕事を片づけたかったのか、あるいは働いているところを見せて於きたかったのか、親父に連れられて東京駅から静かな八重洲ビル群を抜け、永代橋の親父の職場まで歩いた。
 駅前から胸躍らせてタクシーに乗った記憶もあるが、どういう訳か日曜の朝歩いた方を印象深く覚えている。

 高度成長期を迎える胎動のようなものをその町並みに感じたのか、ひどく昂揚して何か選ばれた人間にでもなった気分でひたすら歩いたように思う。

 その時、ビルを背景にして下からアップで撮ってもらったスナップの傑作があったが、中学の時、生徒手帳と一緒にトイレに落としてなくしてしまった(ハンサムに写っていたんだけどな〜(^^;))。

詰まらないことを思い出してしまった。

 内桜田門(桔梗門)まで出て堀に沿って歩く.................昔は、この界隈を歩くだけで武家社会にタイムスリップ出来たんだけれど、乾いた空気と脇を抜けていくジョギングの姿が21世紀を象徴していて、今はそのイメージも湧かない。

そう言えば、ハトバス(東京観光)が結構いいと言う話を聞いたことがある。東京に生まれても、「灯台もと暗し」でほとんど東京のことは知らないもんだ。

 秋の無い毎年を過ごしてきたが(個展と重なり)久しぶりに秋の空気に触れ、欠けていたジグソーの一片を探し当てたような、どことなく幸せな土曜の昼下がりだった............。 

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