「夏の匂ひ」

 「パツ、パツ、パツ・・・・」

 真夏のほてったアスファルトに、小さな墨のしずくのような雨粒が落ち、路面から湿った土埃の匂いが立ち上がってくる・・・・・。

 にわか雨や夕立の降り始めがずっと好きだった.........その先に、晴れた空が来るのを予感できるからだろうか。

     

 四季には、それぞれの匂いがある。

 今の子達は、バーベキューのトウモロコシやウィンナー、そして焼そばとかに夏の記憶を刷り込むのだろうか..........

僕にとっての夏の匂いとは・・・・・・夕立の匂いの他に、今ではもう手に入れることが出来ないだろう藁のストローの軽く乾いた香ばしい香りだ。それから、スイカを冷やした大きな金盥の金属臭。あと、ビニールの浮き袋の臭いも・・・・・。

 匂いといえば、僕にとっての「大人の臭い」というのもあった。

 それは、親父に腕枕してもらったとき気付いた指先の「タンパク質」の臭いだ。

 「大人になると、あんな臭いになるんだ.......」  今の子も、僕の指先の臭いを嗅いで同じように感じるのだろうか?

 甘く柔らかで、ちょっぴりすっぱいミルクの香りのした赤ん坊の匂い......もう一度嗅いでみたい愛しい匂い。

 おとなの臭いとは、何とも現実味があり、ある確かさをもってブレを許さずこちらに迫ってくるようだ。

 好きでもない流行歌に懐かしい記憶が張り付いているように、「匂い」にも明確な記憶がぴったりとズレなく重なっている。

 今 pm 6:00  外では沈む夕日を追いかけるように「カナカナカナ・・・」と蝉が鳴いている。

 湿った蚊帳の匂いと夏を重ねた記憶が切れ切れに思い出される、そんな夕べでした。

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