(東京アメリカンクラブ)
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東京アメリカンクラブでの展示が始まった。



ウィンドウ内の作品展示は初めての体験だ。下見をした時点で、壁面が多く、そして奥行きはないということは分かっていたので、30年前の壁面作品から最近のものまで、新旧取り混ぜて一堂に会するよう展示することにした。


器は、実際に手にすることで、適度の重さや、質感など、五感の中で特に触覚を通して伝わるところが所謂ファインアートとは違う工芸のよさだ。その点で、ガラス張りにしたウィンドウ内でのディスプレーで工芸のよさを伝えるのは、手に取って触れることができないという意味でも難しい。逆に、壁面に飾られた作品は、水を得た魚のように輝いて見えている。



搬入時の飾り付けの際、米国の方から「beautiful !」と声を掛けられるのは、やはり壁面作品だった。初日の内輪のパーティーにお出掛け下さった方の中に、たまたま当クラブのギャラリーの運営委員の方がいらっしゃり、効果的なディスプレーや展示内容のサジェスチョンを受けたが、やはり壁面作品の充実が優先順位のトップに来ていた。
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(photo by Zushiya)
欧米にとって絵画は、壁に作られたバーチャルな『窓』の意味を含む・・・・・

所謂『絵画』は、西洋にとって窓の役割を担っていた・・・とは、大分前に読んだ美術書だったか、Bゼミや大学で受けた講義だった忘れたが、いずれにしても僕ら日本人のもつ絵画と、欧米の方々の持つ絵画の用途は、ものにもよるが、かなりの違いがあるようだ。そして、器に寄せる日本人の思いは、ある意味特別なのかも知れないな~と思ったりもしている。



社会的な経済力は勿論のこと、気候や風土、そして、その社会が持つ居住空間と言った条件が、美術の表現形態や、その内容を決める大きな要因になることは想像できる。
 狭い住まいの中で、身の丈にあった「美」を愛でる僕ら日本人の姿勢は、必ずしも経済的に豊かでなくても十分に美を享受できることを、江戸の庶民の歳時記を繙くことで分かる。欧米と違って工芸というスケールが、日本人に愛され続けてきた所以がそこにはある。



残念ながら英語が話せないので、会場にデンと構えて行き交う会員に殷墟文字の説明や個々の作品のコンセプトを始め、その手法などを説明したいところだが、言葉が話せないということは如何ともし難い。もう作品の持つ力に頼るしかない。

(photo by Zushiya)
展示が始まって未だ一週間も経たないが、今の段階で気付いたのは、アメリカの方々が、ファインアートへの志向がとても強いということだ。 information にも載せたように、クラブの発行する月刊誌に紹介された僕の作品の画像のなかで、一際大きく扱われているのは、何と「古文字厨子」だった。


32ページ目に掲載されています。

URL:http://activemagazine.smedia.com.au/
ActiveMagazine/getBook.asp?Path
=TAC/2009/06/01&BookCollection
=TAC_Index&ReaderStyle=TAC



加えて、当該クラブのHPのinformation にも、この「古文字厨子」が僕の作品を象徴して紹介されていた。

http://www.tokyoamericanclub.org/activities-a-amenities/genkan-gallery.html



勿論、「古文字厨子」は、ファインアートではないが、僕の工芸としての作品の中で最もファインアート性が強いものであることは事実だ。椀やお重に『存在』とか『無限』『時』『事』、そして『魯』『愛』と描くのは難しい。でも厨子には迷いなく描ける。その精神性の幅に、恐らくあちらの方が素直に感応して下さる心的領域があるのではないかと思う。



思えば、僕の所属した伝統工芸の鎌倉彫は、元々は仏師として仏具や仏様を彫って成り立っていた職業だった。その意味で、単なる工芸品とは一線を画していた。僕自身雑器は好きだが、所謂単なる雑器とは次元の異なる精神領域を希求しつつ制作に当たっていたはずだ。そういった歴史を引きずる世界で得たメンタリティーは、無意識のレベルで僕の制作姿勢を規定している。その点をあちらの方に評価されるのは本当に光栄だ。

『古文字厨子』
というわけで、東京アメリカンクラブでの展示は始まったばかりですが、僕にこういった機会を下さったトーマスさんには深く感謝したいと思います。



そして、初日に「社員食堂に飾り、社員に元気を与えたい」と『樹樹の耳打ち』を求めて下さった銀座厨子屋さんの本社ALTE MEISTERの社長保志さんにも感謝です。



また、新たな出会いがあることを祈りつつ、明日からに備えたいと思います。
 
 
『樹樹の耳打ち』.........1976年作