久振りの民芸館だ。

気が付けば、もう30年も僕は工芸家をやっている。それなのに、工芸品に心の深いところで感動したことはあまりない。

ただし、民芸館に収蔵されているものと、川喜多半泥子の作品は別だ。
何故か無意識よりさらに深いところ(原意識とでも言ったらいいのか)で魂を突き動かすものに出会える。
 僕は作家なのでいろいろ考えてはみる。でも、何故これらのものが僕の魂を揺するのか分からない........。

民芸館に収蔵されているものは、柳宗悦が蒐集したものなので李朝工芸が多い。どういう訳か、これらのものに心の琴線に触れるものがたくさんある。国立博物館に陳列してあるものでは、古代と安土・桃山時代そして、江戸の一部の工芸品を除いて、こういった感覚になることはほとんどない(ただ、飛鳥時代の仏像は除きます)。

(館内)
江戸の文化は大好きです。最近は、タモリの影響でしょうか江戸の古地図にはまってます。江戸の工芸では、漆芸もきらびやかな金蒔絵のものも多いのですが、本阿弥光悦や尾形光琳を除くとあまり面白くありません。
まっ、日本の歴史の中でも彼らの仕事は頭抜けているので比較するのは気の毒ですが。

話が逸れてしまった;;;;

民芸館の収蔵品は、概ね金蒔絵の様に贅を尽くしたものはない。ほとんどが簡素で素朴、そして概ね仕事量も少ない。と言うことは......人の胸を打つものは、仕事の密度ではなく「魂の密度」なのでしょうか。

作られたもの(作品)とは、それが陶芸であれ漆芸であれ、ひとつのメタファーですから、土や漆を借りて魂をものに変換したものと言えそうです。個々の材質と語り合いながら魂(原無意識?)を「かたち」にしていく作業がものを作ることなのでしょう。

こういった作業は、過去において様々な職人達がやってきたことです。なので民芸館に蒐集されているものは、そういったものの中でも、ある偶然から上手く喩え切れたもの達ということになります。

民芸館創始者の柳宗悦は、インテリでもあるし裕福でもありましたから、来るべき市民社会における理想が、所謂平民にシフトするべきだ位の思いはあったでしょう。それは、蒐集したものの中に、特権階級のものがほとんど見あたらないことからも類推できます。

(李朝の碗)
市民社会の台頭とセットで登場する、国や地域に帰属しない「個の確立」という新しい近代化の概念は、柳の感性には、とても「うざい」謙虚さのないものに映ったのでしょう。それが証拠に、「無名性」などという造語も柳は作りました。

皮肉にも、この「無名性」なるものから民芸は生まれるといった概念は、その後の民芸運動をリードする作り手の面々を見ても後付のような、あるいは予定調和的な造語であることが分かります。

歴史の視座を今に置いて、そこから過去を見ると「無名性」という造語で、名も無き民衆の残したものの良さを説明することの誘惑に誰もが駆られます。これは今だから言えるのでしょうが、いいものを作る条件とは、そう簡単ではありません。

清く貧しい作り手がいいものを残し、特権階級の金持ちはいいものを残せないなどという、倫理的で陳腐なステレオタイプなことは、誰もがあり得ないと今では思うでしょう。現に僕が唯一工芸界で心底凄い!と思った作り手は、金持ちも金持ち、幾つもの銀行の頭取に就き、実業家でもあった川喜多半泥子です。

彼の作風は、伸び伸びと自由で屈託無く、それでいて初々しくとてもチャーミングです。おまけに、残酷にも貧乏人にはない気品があります。有名になりたいといった野心もあったのでしょうが、基本的に知り合いに喜んで貰うため、そして何より自分を喜ばす為に作り続けたのでしょうから、ひょっとしたら柳の言う「無名性」に近いところで作っていたのかも知れません。

(碗:川喜多半泥子)
半泥子にしろ、民芸運動の主導者達にしろ、彼らに顕著に見られるのは、柳宗悦が拾い上げた民芸なるものの概念を強く意識してデフォルメしていることです。それは「ゆがみ」であったり「はぶき」であったりする訳ですが、そこに機械化に向かう近代市民社会に対置する「人間臭さ」を見たかったのでしょう。

失い行くもの、その無常性を見ようとする美学は、日本人の誰もがシンパシーをもつものです。
 
作り手の思いは、現代にも、近代にも古代にも、そして未だ目にしたことのない未来にも飛んで行くことが出来ます。
 僕らは、「今」に無いものが古代に有りそうなら、迷わず古代へ出掛けて行きます。それは丁度、ピカソがアフリカの民具や彫刻を見てインスピレーションを得たように。そして、柳宗悦が李朝の民具に理想を見たように.........。

(館内)
いいもの............それはいつも倫理を超えている。

久しぶりの民芸館は盛況だった。20年ほど前に来たときはこれほどではなかったように思う。。。結構。

いいものは残していきたい。

(館内は撮影禁止.....なので急いでスケッチ)