〈ライブドア騒動〉感想

僕はある時期から、ホリエモン(または、ライブドアの経営陣)というのが現代の紀伊国屋文左衛門に思えてきた。紀伊国屋文左衛門がどういう人か、概略はWikipediaを参照してもらうとして、簡単に言っておくと、江戸時代元禄期の商人で、みかんを江戸で、塩鮭を大坂で、それから幕府御用達の材木商になったりして、一代で巨万の富を築いたが、晩年は零落して無一文だったという伝説の人である。


紀伊国屋文左衛門の墓 (紀州旬の市>hpより)

大坂で塩鮭を売って大儲けしたときの手口はどういうものだったかというと、大坂で伝染病が流行った時に、塩鮭を食べれば治るといううわさ話を流し、塩鮭の需要が異常に高まったところへ、江戸で買いあさった塩鮭を持ち込んで売りまくったのだそうである。そして文左衛門の人気も一挙に高まった。

今回のライブドア騒動でも、「風説の流布」ということが引き合いに出されたりしたが、ますます文左衛門だなと思ったものだ。


(紀州旬の市>hpより)
近鉄バファローズ球団の買収やニッポン放送の株の買取で世間を騒がせた頃は、面白い奴が出てきたものだなと僕も思ったが、しかし一体何者なのか、何を考えているのかしばらく様子見を決め込むことにした。そのうちに、若い世代を中心とした世の人がホリエモンに、新しい時代を切り開く希望を見出し始めた時に、彼は、経済界の旧弊固陋な体質を変革するなどといったことには興味がない、ただどうすれば儲かるかということだけにしか関心がないという趣旨の発言をした。

(ライブドアhpより)
それを聞いて僕は、こいつはたいした奴ではないなと判断して、以後興味を失った。本などにも「人の心は金で買える」とか書いているそうだけれど、正直なのはいいけれど、事業家としてのセンスには欠けるし、底の浅さを露呈したと思った。ここはひとつ、嘘でもいいから(ある意味、言葉の本質は本心を隠すことであるから)「世のため人のために、経済界の古い体質を打破する」という大義名分を掲げるべきところだった。見栄えのいい表看板をかけることも事業家としての器量の内なのである。

(ライブドアhpより)
この文章は、堀江貴文逮捕のニュース、そしてライブドアの企業買収の意図と手口の解明などを聞きながら書いている。それによると、堀江がやったことは経済界の革命児どころか、やらずぶったくりの明日なきごろつきビジネスではないか。しかし、本当に悪いのは堀江以下逮捕された4人の面々ではないと思う。実は事業家としての資質を持ちえていない堀江らの本性を見抜けなかった新規参入個人投資家群や小泉行政、「情報」産業という虚像のなかに安逸の夢をむさぼろうとするIT志向の若者たち、目が節穴化した経団連のお歴々たちこそがごろつきビジネスを育んだ元凶であり、現代の悪の担い手である。こういった人たちに共通していることは、記号のたわむれに未来の蜃気楼を幻想する、本質的にバブリーな体質である。

(講談社より)
この騒動の根本にある問題は何だったかということに関して、このサイトなりの見解を表明しておきたい。それは、「ものをつくる」ということとそれに携わる人々をウザッタイと見放すような心的傾向である。では「ものをつくる」とはどういうことかというと、「天地の理と情に即して生きる」ことだと、この際そう言ってしまうことにする。ちょっと抹香臭いかなとも思うけれども他にうまい言い方が見つからないので、今のところこういう言い方をしておく。