「工芸品のインターネット販売」ということ
財政学者の金子勝さんは「セイフティネット」という言葉を作った人だ。

サーカスの空中ブランコの下の方にネットが張られていて、演技者が万一墜落するようなことがあっても命を失うことがないように、なにがしかの事情で社会生活を営むことが困難な事態に陥った人が、それでも最低限の生活が保障されるような社会のシステムを、そう呼んだのである。

たとえば社会保険や国民年金、介護保険などの保険制度とか生活保護制度といったものだ。しかし金子さんによれば、そういったセイフティネットの現状はほとんど崩壊状態にあって、経済的弱者は社会的死を余儀なくされるほか道がなくなってきているのだそうだ。


それに対して、新たなセイフティネットを構築していく算段を金子さんなりに提案していこうとしていて、それでいろんな本(提言)を次々と出版しているが、基本的な考え方は、公共性のある共有空間というコンセプトを改めてしっかりと立て直して、新規に作っていかなければいけないということである。

今年に入ってまた新刊が岩波書店から出た。『食から立て直す旅―大地発の地域再生』というので、『週間金曜日』と『月刊JA』に連載していたのをまとめたものである。従来の発想に捉われない農法で、本来の味覚を取り戻した食材を提供していこうと試みる地域を訪ねる旅から、地域発の公共的な共有空間創生の手掛かりをつかんでいこうと試みている。

この種の本は特に目新しいという印象は僕にはなく、そこに提案されていることも、耳目をそばだてるというほどのことはなかった。いわゆる特効薬的なことが書かれているわけではないように僕には受け留められたけれども、それでも、金子さんの思考過程を追っかけてみようと思っている人間として、この本の中で提案されていることを、ここで僕なりにたどってみようと思う。



細かいことは端折ってしまうが、この本で提言されていることは2つある。

ひとつは、「まず人間の経済を一からやり直し、農業において安全や環境という価値を実現するには、土づくりから出発しなければならない」ということ。

もうひとつは、「商業すなわち流通の革新である。具体的には、直売所や朝一といった地産地消、あるいは産直、インターネット販売といった形態をとることで、流通コストを引き下げる戦略」である。

このような提言はむしろオーソドックスそのものであるが、しかし、地域再生に妙案というものがあるわけではなくて、むしろこういった正攻法をきちんと粘り強く積み重ねていくほかないということなのだろうと思う。実際、世界の青磁・経済の支配層が目論んでいるグローバリゼーションの中で、地域の再生を思考していくということは並大抵のことではない。

「直売所や朝一といった地産地消、あるいは産直、インターネット販売といった形態をとることで、流通コストを引き下げる戦略」は、しかしその前提として「まず人間の経済を一からやり直し、農業において安全や環境という価値を実現するには、土づくりから出発しなければならない」ということがある。ただインターネット販売すれば世界のどこかから注文が入ってくる、というものではないのである。

このことは、われわれの「工芸」についても言えそうである。僕は、自分のHPで「WEB MARKET」というサイトを作って工芸品のインターネット販売を試みようとしているが、ここでも「ものづくりの基本」を再検討していくということが、同時並行的に伴っていなければならないということを痛感するのである。