室町古典椿紋彫厨子




 室町古典椿紋笈
 

笈とは、主に修行僧が行脚する際、仏教の教典等を入れるための背負子の事をいいます。笈の中には、手の込んだ装飾が施された高価なものも多い。
 ここに描かれた文様は、当時としては珍しくかなり図案化され、簡潔に表現されている。当時の図案としては、写実的な表現を取らないところがかなり特異で、重層的な彫刻部の凸(+)と凹(-)彫法も、相当深く錬られている。加えて、その重なりは極めて次元が高く配置構成されている。

             

 上記した解説にあるように、室町時代に考案された図案とは思えないほど、この笈のデザインは斬新でモダンである。只でさえ下手物扱いされている鎌倉彫にあって、何とか洗礼した図案として現代にリメイク出来ないだろうか・・・・?
 そんな素朴な願いから、古典の現代への復興を狙った作品です。

 編集後記
 40年以上前の鎌倉彫修行時代、来る日も来る日も古典を彫り続ける毎日。今考えると恵まれた環境だったなぁと(入門した博古堂に感謝)。一方、新しいコンテンポラリーな鎌倉彫とは何かということも同時に思考していました。そこで気付いたのは、日本が近代化の中で経済も文化も欧米圏の中に組み込まれたということ。そのことを美術の世界に落とし込むと、モダニズムが表現の基底に座っているということにも気付かされました。そしてその時に、モダニズムのスタート時点にまで遡り、歴史を振り返ることも必須と感じキュービズムを学び直すことになったという訳です。

僕が、ほとんど歴史に埋もれていた室町古典椿紋笈に眼が行ったのも、モダニズムの洗礼を受けたことによります。また、日本の古典を再考する切っ掛けを作ったのが、ヨーロッパに生まれたキュービズムだったというのも歴史の妙です。この視点は、伝統が創造的であり続けるには必須の構えでもあります。とても象徴的で面白い経験でした。