古文字椀 (鶴亀) |
鶴 | 亀 |
size: 13.5 × 8 cm |
finish:錆仕上げ+透き漆(高台周辺) 内側:渋朱 |
文字部:錫研き/掻き落とし |
木地:栃材 |
画像の殷墟文字は、定番の鶴亀です。 殷墟文字を使うようになって35年程経ちます。自分の中では当たり前のキャラクターですが、初めてこの文字を目にする方には「何故この特殊な文字を使うのか」疑問を持つ方も多いと思います。そういった事情を考慮して、新作を世に出す場合、先ずは間口が広い、ある意味様式美に近い形で提案することを手掛けてきたように思います。その筆頭が「鶴亀」という文字になります。 今回は、甲骨文字に近いタッチを出したかったので錫蒔絵で丸を埋め、その錫粉が乾ききらないうちに、鋭い線が引ける製図用の図面引きの小道具を使って「掻き落とし」で文字を書きました。これは、一発勝負でスリリングな手法なので稚拙で偶然性の多い筆致が出ます。それが狙いです。 30年もこの文字を書き続けてくると、どうしても悪い意味で”達者”になってしまいます。そうすると甲骨文字のもつプリミティブな味が出せません。そこで選んだ手法が「掻き落とし」です。これで多少古代の趣が出せるのではないか・・・・と願って書いています。 鶴亀は長寿の象徴ですが、流石に千歳や萬歳は生きません。記録の上では、亀で200年ほど。それでも長寿であることには変わりありません。いつの世も長寿の願いは普遍的です。 |
漆という材質の魅力は、「木胎に塗布したときに表れる木目を生かした透きうるしにある」と言っても過言ではありません。この椀の高台部分に、この「漆の魅力」である透きうるしを隠し味として表現してみた。「透きうるし」は、時を経るごとに味わい深くなります。 漆工芸として、僕に課された役どころは、”現代”を表現の核に据えることだと認識している。なので、一般的に流布されている”漆の良さ”の上に立って表現するのは、他の作家にも出来ることで自分のすることではない!と考えていました。けれども、そういった役所を超えて飴色に輝く漆の魅力は素敵です。ここは素直に、漆のもつ卓越した材質の力を借りてみました。 |