琴爪入れ (1975年作)

正 面

蓋上面 蓋内側
身内面 身裏側

素材:楓
仕上げ:着色後摺り漆・呂色塗り研ぎ出し(内側)
size:6×6× h4.5 (cm)
正真正銘の処女作です。

1975年秋、僕は鎌倉彫の世界に入った。この世界に入って三日目「暖簾分け」がないことを先輩から知らされ、加えて当時の業界全体での総売上が年間1億円にも満たないことも知った。これは、小さな中小企業が一社で稼ぎ出す総売上にも満たないかも知れない(商品としての販路が殆どないことを意味していた)・・・こうなったら作家になるしかないと覚悟を決め猛勉強を始めた頃です。

形振り構わず無我夢中であらゆるものを貪欲に吸収し、そして、見よう見まねでいろいろなものを作りました。この「琴爪入れ」もそんな状況の中で偶然出来上がったものです。実は、この作品はギリシャ彫刻のキレネのアフロディティーの曲線の美しさからインスピレーションを得たものです。

この年の確か11月に業界の展覧会・鎌倉彫創作展があり、先輩にも勧められこの「爪入れ」を出品した。幸運にも奨励賞なるものを頂き、正しく闇の中で一条の光りを見た思いでした。