盲目の秋
 

    T

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限の前に腕を振る。

その間(かん)、小さな紅(くれなゐ)の花が見えはするが、
  それもやがては潰れてしまふ。

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限のまへに腕を振る。

もう永遠に帰らないことを思つて
  酷白(こくはく)な嘆息するのも幾たびであらう……

私の青春はもはや堅い血管となり、
  その中を曼珠沙華(ひがんばな)と夕陽とがゆきすぎる。

それはしづかで、きらびやかで、なみなみと湛(たた)へ、
  去りゆく女が最後にくれる笑(ゑま)ひのやうに、

厳(おごそ)かで、ゆたかで、それでゐて佗しく
  異様で、温かで、きらめいて胸に残る……

      あゝ、胸に残る……

風が立ち、浪が騒ぎ、
  無限のまへに腕を振る。

                      (中原中也)

言葉を失いかけた時、人はこの詩に共感を覚えるのじゃないだろうか............................。

もはや、言葉をもってしても喩えられない場面に出会ってしまった時、人はこの詩に共感を覚えるのじゃないだろうか............................。

「無」という状況を、「無」という文字や言葉で喩えるしか「無」という場面を人に伝えることが出来ないもどかしさ。

どんな言葉もあたらない焦り。

人はそんなときでも、暫く沈黙した後で再び言葉をまさぐる......................。

秋というわけではないはずなのに.............ふと、この詩を口ずさんでしまう自分がいます。