大工牧野

 どうもこの暑さで体調を壊してしまったようだ・・・・・・。

 先日、僕の尊敬する友人の大工牧野さんのところに用事があって電話したところ、かみさんが電話口に出て「おとうちゃん、具合が悪くて仕事を休んで寝てる」と言う返事。  えっ、あの牧野さんが?・・・・・。

 この牧野という大工は、フランス人のような風貌をしたハンサムな奴だが、その仕事ぶりたるや「凄い!」の一言だ。仕事の速さも尋常じゃないが、その質たるや「大工」と呼ぶには余りにもふさわしくない位モダンで芸術的な感性の持ち主なのだ。そのくせ彼のトラックには「大工牧野」とだけ、極々小さな文字で隅の方に銘打ってあるだけで、心憎いほど粋な奴だ。無論、僕の家は彼に建ててもらった。(彼の新築の仕事第一号だ)。

 東北は宮城生まれの彼は、中学を卒業すると(中一のときお父さんが他界)、叔父を頼って上京。親方の車で現場に出掛けるときは毎朝決まって車酔いで「吐いていた」そうな。
車の免許を取って最初に手に入れた車は、オペル。30年以上前だから凄い!。

 僕が今まで出会った人物で、「こいつは凄い!」と思ったのは何人かいる。先日亡くなった現代美術の巨匠斉藤義重、それに吉本隆明が先ずあげられるが、「こいつは偉大だ!」と感じたのは、大工牧野ただ一人だ。

 以前、その彼に「牧野さんの尊敬する奴は誰?」と、野暮な問いかけをしたら、返ってきた返事が「チェ・ゲバラ」だった (^^;;

 阪神・淡路大震災の時、彼はトラックに材木を積めるだけ積んで神戸へすっ飛んだ。現場の惨事はひどく、倒れ掛けて傾斜したビルや家屋の間を、人は勿論、フラフラ・フラフラ犬までも夢遊病者のように彷徨していたそうだ。そんな中、彼は地域の公園に避難した人々を無言に励まし(彼ほど無口な奴を僕は知らない)黙々と掲示板を立て、共同の炊事場をつくり・・・・・・・等々、出来るだけのことはやって、一週間後、黙って被災者の今後を祈って帰って来た。

 そんな牧野さんが寝込んだ。・・・・・・ショックだ。

 歳。そう歳なのだ。最近ホント無理の利かない「歳になったな〜」とよく思う。

 実際、刻み(製材等材木 に細工を施すこと)を頼みに彼の作業場に出掛け、わざわざ僕の材料の刻みをするため無理を押して待っていてくれた彼は、思いの外元気そうだった。

 「牧野さん、歳なんだからね!・・・・・・・。」   「うん・・・・・・・。」

 ・・・・・・・自分にも、同じ事を言い聞かせている今日この頃です、ハイ。

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