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「霧の向こうの不思議な町」を読んだ。

iPadの電子書籍を巡っていたら、My 本棚に所蔵されているのに気付き、先日目を通した。普段小説にしろファンタジーにしろ、先ず手に取ることはない。なので、すっかり忘れていた。一体どんな書評で取り上げられていたのか、あるいは、どんな識者が勧めていたのかも思い出せないでいる。

読後の感想では、どなたが薦めたのか思い出せないのが悔しいくらい素晴らしいものだったので、何やら得した感じ。歳はとりたくない。で、ファンタジーって、こんなにも面白いんだと、その深さに今更ながら感心。もしかするとファンタジーを読んだのは初めてかもしれない。そんなことがあってか、面白い夢を見た…。
....... さすらいの鮫幸子さんとかが集まってくる場所…穴熊のような、蟻食いのような不思議な動物がたくさん棲息している。寂しい人々が老若男女それぞれの居でたちで訪ねる。「みんな寂しく孤独なんだなぁ」と納得。同じような心境の人達がたくさん居るのを知ってホッとする。

で、思ったのだが、昔から童話の世界に擬人化された動物が定番のように登場することに違和感を持っていた。対象としている児童を、未熟で大人より意識も低いゆえ、普段人間様より低い位置にいる動物と同等に扱うことで親しみやすさを演出しているのか…位の認識だった。今回「霧の向こうの不思議な町」を読んで自分の認識が浅かったことに気付かされた。
 
The Marvelous Village Veiled in Mist 英語文庫
吉本隆明の身体論に、「実は我々人間は、自分の身体性に関してよく分かっていない」という言説がある。それは、人間が自分の肉体を観察する場合、観察する本人自体がひとつの物質で出来ていて、どの様な思考を持つにしろ物質である自分の構造内で自分自身を観察するので、その理解の仕方には自ずと限界がある。そのことをフッサールは、「エポケー」と呼び、観察体自体が観察するシステムに繰り込みつつ観察することの矛盾を、一旦括弧に入れて人間や外界を客観的に理解し認識する方法を提案している。

このことは、本気で語ると何冊かの本になる位深く難しい内容なのでこれ以上深掘りしないが、あっさり言うと、吉本隆明さんが言うように、我々は、自分の身体に関してよく分かっていないということになる。それ故に人は、トーテミズムといった、ある特定の動物を自分らの祖先であるとして、ワニ族やら、熊族やらに属するとしたりして来た。そのことは、ひとは自分の身体性に関してよくわかっていないことの証拠だと。

トーテミズムとは....
<人間集団がある特定の動植物(トーテム)と特別な関係をもつと考える信仰、それに基づく制度>

リベラルアーツHPより
話がファンタジーから外れてしまったが、要は、童話にしろファンタジーにしろ、動物が人と同じ重さで登場して中心的な存在として物語を構成する、そのことの持つ意味は、実は、我々人間が自分自身の身体性に関してよく分かっていないので、普段は別格な存在の動物や生物と同格に扱う方が、返ってリアリティがあることの証でもある。そのことが、童話やファンタジーに動物や生物が、ひとと等価に登場することのもつ意味になる。

ファンタジーは、そういったことを前提にして物語が展開し、そのことにひとは違和感を持たないところが何とも不思議で面白い。多くの人は、無意識にそういったことに気付いていた様で、僕は遅ればせながら70歳過ぎて漸く知ることが出来たという訳になります。そして、読後に自分の見た夢へ無意識にスライドしたのは、恐らく夢に登場する人や動物植物を含む事物が、ファンタジーと同様に全て等価だということにあった様にも思います。魔女やオウム、小人や狂人、猫や虎、小人と大人、登場人物や登場するキャラクター全てが等価であることもまた現実の世界とは違っていて、そこがファンタジーのファンタジーたる所以でしょうか。

『千と千尋の神隠し』
で、関係する画像等をネットで検索してみると、巨匠宮崎駿が、柏葉幸子作品に相当影響を受けているといった情報が散見される。僕自身『霧のむこうのふしぎな町』を読んでいて「これって『千と千尋の神隠し』のワンシーンに被る」って思った。それは、主人公が「振り返ってはならない」とされるシーン。この過去を振り返ってはならないという設定は、<千と千尋>だけでなく、古典にも多くある設定で、その歴史は古い。代表的なのはギリシャ神話『オルフェ(オルフェウス)』だが、恐らくこの雛型はさらに遡るはずだ。そのくらい普遍的な物語の型だと思う。ここを深堀することは重要に思われるけれども、今回は、そこではない<ひとはひとの身体について何も分かっていない>を視座に立ってファンタジーを語ってみました。

「霧の向こうの不思議な町」の書評は、専門家が色々語られているでしょうから、僕は、一般的な文芸評論とは全く違った、ひとが自分の身体性に関してよく分かっていないという観点で述べてみました。因みに、『耳をすませば』のワンシーンで、主人公の月島雫が手に持っていた本が「霧の向こうの不思議な町」だそうで納得です。

『耳をすませば』
このところAmazon primeで、主に邦画を観まくっている。昨年の今頃は韓流ドラマにハマっていて韓ドラ恐るべしと、邦画はダメだなぁと落胆していましたが、どうしてどうして邦画もやるじゃんとホッとしている今日この頃です。特によかったのが、韓ドラほど丁寧ではないのですが、videonews.comの神保哲生さんのお薦めの『糸』。中島みゆきの偉大さも再確認。そして、主演女優小松菜奈の演技が素晴らしいので『余命十年』、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』、『さよならくちびる』、そして、『恋は雨上がりのように』を観た。すべてAmazon prime video で観たが、選別は時間がないので☆マークを参考にした。

で、劇中北村匠海という男優の演技力にうたれて『明け方の若者たち』、『君の膵臓をたべたい』、『思い、思われ、ふり、ふられ』と観てきた。どれも素晴らしい。失われた30年で全く良い思いをしていない今の若者に何とかここを凌いで、また元気な日本を作っていって欲しいなぁと都合のいいことを願ったりしています。

「霧の向こうの不思議な町」から外れてしまいましたが、要は「物語」は面白いということを今更ながら知ったというお話でした。

では、では。
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