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今年の中秋の名月には誰もが釘付けになったのではないだろうか。僕はと言えば、丁度ナイターのテニス教室に出掛けるその時、進行方向の東の空に上がり始めた。まるで出会い頭の事故の様に。

地平線に近いところから上がる太陽や月に対して、僕らの視覚は錯覚を生み天空にあるそれより何倍も大きく感じる。
 昔読んだブールーバックスで、この錯覚を確認する方法として、手を伸ばした先に五円玉をかざし、その穴に月が入るかどうかを確かめると、実際の月は意外にもすっぽりと穴に収まると。これは、水平線上の月も、天空の月も変わらず小さな穴に収まってしまうということなのでちょっと驚きだ。
本来、月は陰で人々の無意識を象徴し、太陽は陽で意識を象徴してきた。ところが、今年の中秋の名月は、まるで太陽の様にオレンジ色に輝き、尋常でない大きさで饒舌に語りかけてきた、いつもの奥ゆかしさをかなぐり捨てて。
 圧倒的な大きさと、異様な美しさで迫る今年の満月を、何とか画像に残そうと側道に車を寄せスマホを向けるが、オートフォーカスなので近景にピントが合ってしまう。やっとのことで撮ったのが↑の画像。手こずっていたこともありテニス教室に遅れた;;

練習中何度も月を見上げたが、既にいつもの満月より照度を多少上げてそこにあった...... 。

パンデミックの今を象徴しているのか、僕らの無意識が不安だからそう見えてしまうのか、いつもの満月とは明らかに違って見えた。きっとメルロー・ポンティなら、月も僕らを観ていて、その月を観ている僕らも月に観られている・・・という無限ループの中に満月はあると言うのかも知れない。

SKYWARD+(スカイワードプラス)より
満月は、昔から、人の気を狂わすといわれてきました。 科学的にも、地球と月との引力の関係で、満月の夜は引力が強くなり、 人体の七割を占める水分が影響を受けないはずがないと考えられています。特に、脳内の水分の微妙な変化がです(SKYWARD+(スカイワードプラスより)。
 というか、それ以前に、僕らが遥か遠い昔、未だ魚類として母なる海に棲息していたころ、月の満ち引きは直接的に僕らの身体や心に強い影響を与えてきた。そのことの残余が、出産や心疾患が月齢と関連していることが知られていることからも了解できる。

また、アメリカでは、殺人や放火、レイプといった凶悪犯罪が満月の夜にきわめて多発していることが統計的に証明されていて、 ニューヨークやロス警察はこの日の夜の警備をより厳しくしています。 イギリスでも、古い法律には、満月の夜に法を犯しても減刑されるという条項があったといいます。 落度は本人だけのものでなく、満月の状況下にあったことが認められていました。 また、ラテン語でルナは月、あるいは月の女神の意ですが、ルナティックとなると精神異常や狂気を意味します。(SKYWARD+(スカイワードプラスより 

(毎日新聞デジタルより)
  ところで「中秋の名月」の中秋とは、中国における中秋節からの由来と考えるのが自然だろう。東アジアには、中秋節を起源とする「お月見」があり、各国でそれぞれ違った催事になっている。ただ、元はと言えば先祖を祀ることに主旨があったので、それは花見と同様に、死者を迎い入れ酒や御馳走を手向け、此岸の我々と交わり、その後彼岸(他界)へと還す行事であった。

この辺の話をネットで検索しても、出てくるのは中秋節には月餅を食うとか、家族で食卓を囲む等々の話しか出てこない。花見の名所の紹介は多いが、僕らが何故「花見」をするようになったのかを紹介する記事にはなかなかヒットしないのと似ている。まあ、花より団子かな。

こういう時は、先ず折口信夫が何を言っていたかを繙くのが一番だ。

お月見に信仰の意味合いがあるのは、月が出る間際の空のほのかな明るみに、左右に観音・勢至両菩薩を従えた阿弥陀如来の来迎を拝することができると信じたから、 というのが折口信夫の考えです。 夜更けて出る月を神聖視して、十五夜を一番とし、 前日、陰暦八月十四日の月を待宵(まつよい)、 満月の翌日の月を十六夜(いざよい)などと称して信仰と観賞の対象としました。(三井寺HPより)
 
BIGLOBEニュースより
お花見にしてもお月見にしても、その核となる精神性はすっぽり抜け落ちて、只の飲み会やお食事会になって庶民に一般化するのが健全な流れなので、それはそれで良いのかも知れないけれども何か寂しいなぁと。。

各国のお月見の中で、日本が他国と異にするのは、月を直接愛でるのではなく湖面や盃に映る月を間接的に眺めるというのが風流とされる点かも知れない。
 太陽の光を反射する間接照明として月光はあるが、それを更に湖面に映して眺めるという重層的な間接性は、何とも奥ゆかしくていいなぁと。

ということで、月は僕らに絶対裏側を見せない様に地球の公転に合わせて自転をしているという意味深な動きは一体何を意味しているのか、そして、そのことは何のメタファーなのか、どんどん深堀してしまう自分がいます。
 
そう、コロナ禍での中秋の名月は、僕らに新しい裏の顔を魅せてくれました。

では、では。
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