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今年も盆が来て過ぎていった。



いつものようにお墓参りの梯子を済ませた(計4件)。そして、終戦記念日(正式には敗戦記念日)と重なり、今年は日韓併合百年にもあたり特別の年になった。



戦後65年経ち、戦争の実体験を持った方々の余命も短くなったことの自覚からか、思い出したくもないおぞましい記憶を辿って、その重い口を開き始めている。語り初めて直ぐ涙が溢れ出てくるのは、当時の記憶がリアルタイムでフラッシュバックするのだろう。語った時点で、同じ体験を繰り返すことと同じ意味にになるのだから、僕らの想像を超えて「戦争を語る」ことはシンドイことなのだと察する。
僕自身が、年々あちらの世界に近くなってきているからだろうか、生きている世界の人々のことと並んで、親類縁者は勿論、すでに亡くなってしまった人々のことがとても気に掛かるようになった。それもその筈で、これから邂逅するであろう人々より、過去に出会った人々の方が遙かに多いと予想できる。



古い記憶を辿って、ぼんやりとしていると、叔母から電話が入り「14日の新聞に文男さんが亡くなったとあった」とのこと。「文男」とは、僕の母方の叔父で、無謀にも僕が作家を目指して独立したとき、真っ先に新築祝いの贈呈品の注文をくれた恩人でもある。
 

宮大工の田中文男さん死去 重要文化財の保存に尽力

2010年8月12日21時1分

 田中 文男さん(たなか・ふみお=宮大工)が9日、肺がんで死去した。78歳。葬儀は親族で行った。喪主は妻和子さん。後日、偲(しの)ぶ会を開く。事務局は千葉県成田市の岩瀬建築(0476・96・0104)。

 佐賀県・吉野ケ里遺跡の北内郭の復元や、千葉県佐倉市の旧佐倉藩主邸宅「旧堀田邸」など、国指定重要文化財の保存、修復を担当した。東大建築学科教室の民家調査に加わり、古民家や社寺建築の調査・修理を重ねるなど、「学者棟梁(とうりょう)」とも呼ばれた。

http://www.asahi.com/obituaries/update/0812/TKY201008120356.html


従兄弟の結婚式にて
田中文男....... 僕が漠然と建築家にでもなるか・・・と考えていた浪人中、母親から優秀で面白い建築家の弟がいるから相談にのってもらうといいよ、ということで池袋の”Bon”という喫茶店で待ち合わせたのが叔父と初めての顔合わせだった。



宮大工で建築家。。。和風モダンな格好いい風貌を思い描いていた僕だったが、目の前に現れた”叔父”は、ニッカズボンに丸刈りの願人坊主の呈で、おまけにドスの利いただみ声で「日出夫か」と来た。



”おお!格好いい”と、ただ者じゃないことを直感した僕は、話していく内に「この人に感染したい」と強く感じた。



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その後、こちらもいろいろあって・・・・・・30年以上前、かみさんと二人で結婚の挨拶に叔父の家に出掛けた折、「結婚式は挙げません」と伝えると「馬鹿いってんじゃねえよ。そういった儀式というのは、自分らのためにやるわけじゃねえんだ!」と一喝。「俺がやってやるから言うとおりにしろ!」と速攻もう一人の神田の叔父に「栄治か、日出夫が馬鹿なこと言ってるから、俺たちで式をやってやろうじゃねえか・・・・」と電話。



この神田の叔父は、四年前に心筋梗塞で亡くなった、これまた僕にとっての恩人で、以前どこかで書いたが、僕が高校受験の頃、母親に高校には行かずに牧師になる!と泣かせたときも、唯一「それはそれで、良いじゃないか」とすんなり賛成してくれた物わかりの良い叔父だった。なので文男叔父さんの誘いには乗らず「本人達が式はやらないって言っているんだから、それを尊重したらどうだ」と真反対の見解。



.........正直、式は挙げないと決めていた僕には救いだったが、今考えると文男叔父さんに、そのまま押し切られた方が何かと良かったかも知れないな・・・と思うところもある。

継手・仕口―日本建築の隠された知恵 (INAX booklet) 田中文男著他

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思えば、僕が独立して作家になろうと決心した切っ掛けは、この叔父・田中文男のある誘いにあった。それは、まだ鎌倉彫の修行中、工房に叔父から「今、目白雑司ヶ谷の鬼子母神社の修復工事をやっているから見に来い」という電話をもらったことからで、鎌倉彫の世界の外には、まだまだいろいろと違った世界があることを、井の中の蛙だった僕に気付かせてくれた。



確か、都から三億数千万の補助金が出ていたが、「赤字だ」と言っていた。でも「一番やりたい仕事だから生活費は、一般住宅の建設工事で稼げばいいんだ」とも言っていた。当時の僕は、”三億”という額が高いのか、低いのか、皆目見当が付かないで、何だか大変そうだけれど人には金に換えられない特別な仕事があるんだ・・と一段深い世界の存在を意識させられた。


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一昔前の叔父達は、どうしてあんな風に面倒見が良かったのか・・・・・最近よく考える。



・・・・そう、叔父という存在は、大体こちらが窮地に立ったときに相談に出掛ける、謂わば駆込寺のような”場所”だ。なのでこちらの恥部や醜聞は、すべて握っている存在。あちらもその点は了解していて「男は、脛に傷が一つや二つなけりゃ一人前になれねえぞ....」と励まされた。



 息子達にも、あんな叔父がいたら、どんなにかいいだろう。そう思う。



”叔父という場所”は、人生で失敗したときのシェルターのようなところ。一喝食らってベロベロに飲まされて、泣きを入れて醜態をさらしても許される場所だ。今の不寛容な世の中じゃ、再チャレンジなんて机上の空論で、まず失敗は許されない。僕らは何て好い時代に育ったんだろうとつくづく思う。
 
   
 何も恩返し出来ぬうち、二人の叔父は逝ってしまった。



僕に遺されたことは、叔父・甥という括りではなく、もっと普遍化した関係性を他人との間に築くということなのかなとも思う。ちょっと頑張ってみたい。



叔父さん、ありがとうございました。

合掌
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