9月15日                      夢 

 連日の熱帯夜のためか、珍しくかなり長い昼寝をした・・・・・・。

 ・・・見覚えのある部屋は、一昨年97歳で大往生した現代美術の巨匠・斉藤義重のアトリエ。氏は、何やらイラストじみた下絵があるキャンバスを既にイーゼルにのせていた。

そう、およそ20年前僕は、東京画廊での「斉藤義重展」に向けて、晩年の「黒のインスターレーション・シリーズ」の下準備を手伝っていた・・・・・。

 菅木志雄や小清水 漸そして、 関根伸夫など多摩美大・斉藤ゼミから出た「もの派」の重鎮達が、以前美術手帳の特集で斉藤ゼミの講義の様子を語っていたが、それによると義重さんは作品とも言えない生徒達が無造作に造るものを興味津々に眺め、意外にも後日自分の作品のどこかに、それらの生徒達の作品の香りがする部分を取り入れていたという。好奇心旺盛で、いつも初々しい感性を持ち続けてる術を心得ていたのだと思う。

 そんな氏がかって多摩美術大学の教授だった頃(学園闘争の後、学生と共に大学当局と戦い一緒に学園を去る前)、一人の学生が提出物を出さず、授業を欠席していたため、普通なら単位を落とすところ、氏は彼に欠席理由を尋ねた。

彼は正直に彼女との恋愛で、授業どころではなかった旨を伝えたところ、氏は「うん、そうか。君は愛を創造していたわけだ」と、二重丸を付け単位を与えたというエピソードがある。氏の人柄を彷彿させる僕の好きな話しの一つだ・・・・・。

(『複合体101』・『T/Sー遊牧』)

夢の話に戻ろう・・・・

義重さんは、用意したキャンバスに

「君・・・この下絵に君の好きな色をつけてみないか・・・・・・。」

何せ寡黙な義重(gijuu)さんは、一言一言が深いから「ねらいは何なんだろう?」とつい要らぬ詮索をしてしまう。

これから起きるキャンバス上でのスリリングな「事件」をワクワクしながら待っていると言う感じだ。

はて、どうしたものだろう・・・・?僕は、自分の度量や才能の丈を計られているようで「よわったな〜」とは思ったが、ここは先生も僕のアクションから何かインスピレーションを得るのだろうと開き直って自分のイメージを一生懸命膨らませていると言った風だ。

場面はそこで全く違った文脈に変わってしまう。

久しぶりの義重さんとの邂逅?だったので、この夢の意味するところは何なんだろう・・・?とつい考えてしまうがぴたっとした説明が浮かばない。

名著「胎児の世界」(三木茂夫著)によると、 「こころ」の動きは、内蔵の活動に大きく規定されるという。

睡眠時に優勢な「内蔵系」の興奮が、覚醒時に優勢な「体壁系」の細胞記憶をよみがえらせる・・・・(中略)睡眠中の内蔵感覚が、かつて体得した出来事を夢の中に呼びさますのである。・・・・・(「胎児の世界」より)

夢の記憶は、53年のちっぽけな自分の歴史に加え、生命が地球上に誕生したときからの何十億年といった「生命記憶」によるものというから、僕が必死に考えたところでそう簡単にその意味が辿れるものではない。

冷夏のあとに来た、記憶を辿れない今年の夏を引きずるように猛暑が続く今年の秋だが、おまけの夏休みが来たようで案外喜んでいる今日この頃の私であります。

それにしてもあのキャンバスは・・・・・・・・・。