Baby Steps  
   

Baby Steps』というコミックスがあるのをBSの番組で知って、息子に知っているかと尋ねると、持っているという。1巻から25巻まで読んだのが一月半くらい前の事だった。一気に読んで本屋に出かけ26巻から最新の44巻まで買い増して、これまた一気に読んで1巻に戻り、さらに44巻までを3度ほど繰り返し、ようやく専門雑誌の論文が読めるようになった。


Baby steps to Giant strides10巻でアメリカのテニススクールの友人が主人公の栄一郎に贈った言葉がタイトルになっている。取り立てて恵まれた才能もない真面目な優等生がひょんなことから家の近くのテニススクールに体験入学し、面白さに目覚め高校一年生から初めて高校3年生で全日本テニス選手権のベスト4になり、高校卒業後にプロとなってフューチャーズやチャレンジャーの大会で武者修行しつつ、ATPポイントを稼いで、いずれグランドスラム本戦出場という筋書きなのだろう。

 

常滑レポート index
 07/05  Baby Steps 
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若者たちと
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 梅雨入り直後
笛を吹いてはならぬ 
 晴鳶堂の記
 桜咲く
 若者三人
忘我に導かれる事 
立春 
一区切りの正月   

2005~2017  常滑レポート index

粗筋だけだと、そんなことはあり得ないなと判断してしまうのだが、実際に読んでみると実に細部まで詳細な描写でテニスに関する最新の情報も満載でリアルな世界に、ついつい引き込まれてしまうのであった。

 

テニスの練習で気づいたことや、試合の記録、対戦相手の特徴などを詳細にノートに記録し、そのノートを観ながら試合の反省や、新しい作戦を組み立てて劣勢を挽回したり、難敵に挑戦したり。毎日まいにち一試合ごとに一歩一歩上達して着実に成長していく姿にはやはり感動させられてしまう。

 

現実の試合で配球やスピンだのスライスだのと球種までノートに記録することはあり得ないことだが、そこはコミックスの強みだ。そして、なにより錦織圭の存在が一層リアルさを加えているのは間違いない。ちょうどウィンブルドンの予選が終わり、本戦が始まる季節だ。あのコートに立つことがいかに困難な事かという事も、この作品でよく判る。

 

世界ランキング9位の錦織の年収が37億円とかいう報道が先週あたりにあったが、日本人アスリートのダントツだ。インターハイやインターカレッジのレベルで優勝することも大変なことだが、そのレベルではウィンブルドンの予選にかすりもしないのが現実なのだから、高校野球のスーパースターが日本のプロからアメリカのメジャーリーグに行くようには行かない世界だ。

   

それにしてもノートを付けることで何かが上達するという経験が自分にはなかった。もちろん、これまでどれだけノートを作ったかしれないが、それはノートに書き込むことによって大事な事を記憶するためのノートだったように思う。そして、学生時代の記憶はノートに書かれた事柄よりも、講義の雰囲気であったり講師のこぼれ話的な一言であったりする。

 ノートを見直すのは定期試験を受ける前であり、それが済んでしまえば見直すこともなくなるのだが、その程度のノートしか作ってこなかったので今のレベルにしかなれなかったのだろう。そして、そういう才能は一部の人たちに占有されているのではないのだろうか。

 
 

骨董の類は箱書きが時に中身の作品より重要だったりする。その箱書きの為に行った調査のノートを克明に付けていたのが先代の山田陶山師であった。スケッチの巧みで器の形を写し、銘記、落款なども写して解読しておられた。

 

そして、どのノートに何が記されているのかを微細に記憶しているので、こちらが質問すると、それはこれの事だろうといってノートを開いて示してくれるのだった。本業の作陶よりも、調査研究に時間を費やし豊かな暮らしぶりには見えなかったが、行くたびに抹茶を自ら点てて振る舞っていただいた。

 
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惜しむらくは文章として残したものが少なく、読み手に配慮し過ぎて難解な部分を省略したものが多く、後世の研究に貢献するほどのものになっていないところか。とにかく几帳面で博覧強記という人物であった。

もっとも、時代は大きく変わっていろんな情報がいくらでも入手できる現在、ノートに残すべき知識とは何なのかという疑問が頭の隅から離れないのも事実だ。学生と接していると若者は、かつての知的好奇心などよりゲームの世界に浸っている感じを強く受けるのであった。