およそ25年前、そのころ陶芸という分野も欧米諸国が先進的で常滑なども、そこから多くを学ぶべきであるという認識をかなり強くもっていた。

しかし、常滑を訪れる幾人かの指導的立場の陶芸関係者は、この土地で学生を学ばせたいとか、とても魅力的な場所であるという感想を漏らしていたのだった。

そこで、若者たちは集まり、常滑に世界から陶芸に関心のある人々を招き、ホームステイをしながら作品を作り、その活動からわれわれも学ぼうとしたのだった。

この動きの真只中にいた私は、かなりしんどい思いをしながらも大きな失敗もなく、はじめの5年間を過ごし、そして静かに退いていった。そして、この活動は現在も継続するプロジェクトになっている。
さて、そのプロジェクトの最初の参加者の中に私と同年齢のアメリカ人女性アンちゃんがいて、彼女は学校で美術を専攻し、その後の方向性を決めかねているところで常滑の計画に接したのであった。

常滑の陶芸家、通称、雄さん宅にホームステイしたことで彼女の人生は変わったらしい。彼女はコラージュのような平面の作品を中心としながらも、常滑に来て茶碗を作ることに強く惹かれたという。

その後、アンちゃんは世界中を飛び回り、各地で制作を行いつつウィスコンシンの美術系大学の教授の職を得て、先日3度目の常滑訪問となった。メールのやり取りで情報交換が濃密にできるようになったことは、ここ6・7年の間のきわめて大きな変化だ。

そして、常滑に2泊、次なる訪問地は中国の西安だ。そこで開催される国際会議に出席するのが、この旅の主たる目的であった。秦の始皇帝の墓に伴う兵馬俑など古代の中国の工芸が彼女の作品に及ぼしている影響を発表するために招かれているということであった。
仏教や道教、儒教さらにはヒンズー教に関しても勉強していて詳しく説明してくれる。アジアの文化や自然観を精力的に平面作品に取り入れようとしていることが良くわかる。

インドで作品を制作する招きもあるという話から、そこは雄さんもインド人の陶芸家で常滑に暮らしていたことのあるワーリーさんの縁で訪れたことのある場所のことで話しはもりあがったりした。

みんなが世界中を飛び回り、いろんなところで接点を結んでいる。彼女を常滑の沖合いにある中部国際空港に見送ったが、その混雑から見ても実感として世界は小さくなっているのだった。

ただ、アンちゃんは僕や子供たちにいろんなお土産を持ってきてくれたのだが、それがディズニーキャラのノートであったり人形のついた風船ガムであったり、あまりにもアメリカンでヤンキーオバちゃんの好み、まんまなのだった。

名鉄常滑駅の改札で出迎えた僕に抱きついて、周りに人がだれもいなくなっても、まだ離れようとしないし。うれしいけど恥ずかしいし・・・
思弁的な芸術作品についての彼女の熱い解説と日常の感覚を否応無く表しているお土産群やら、旧交の温め方のギャップを肌に感じ、彼女が僕のために持ってきてくれたオールドスパイスのアフター・シェイブ・ローション強烈な匂いにクラクラするのでありました。お父さんが愛用していたもので、その匂いが素晴らしいのだというのだけど。

アンちゃんは自作の陶器の画像もネットにアップしているのだが、その作品にはどうも彼女が熱くしゃべるほどの思念を見出せないのであった。皮膚感覚のレベルで工芸に対する違いを感じさせてくれた出会いということでは、とても有益ではあったなあ。