漆芸の置かれている状況   11月14日

 工芸の制作が成り立つには 、大きく分けて二つの要素が重要と思われる。それは、時代の要求するデザインと材質だ。漆芸を成立させる上で、この材質の問題は今とても難しい状況と言える。工芸が無理なく成立するにはデザインが心理面で、そして、材質が経済面でそれぞれバランスが取れていなければならない。21世紀を目前にした現在、時代の必然性の上にのって造られる器は、プラスチックに代表される石油製品と、湯水のごとく?とは言わないまでも、全ての物質の最終的な姿である「土」を使った陶器といえる。化石燃料である石油が有限であるのは、木材や漆と変わらないが、加工する上でのその可塑性、耐久性、そして表現できるカラーのバリエーションさらにコストと、何れをとっても大量生産を基盤とする消費社会では、他の素材を抜きん出ている。「土」にしても資源は無限とも言えるし、器物に関しては、縄文土器以前からの膨大なノウハウが蓄積され、他の追随を許さない。しかし、日本の漆器は、現在98%を中国産の漆に依存しているし、漆器の生地である木材は、原材料としての輸入を法的に制限を受けているという現状がある。合成樹脂が生まれ、それまで漆が担ってきた役割を引き受けることになり、漆は第一線から身を引くことになったが、漆の可能性が全て合成樹脂に奪われた訳ではない。それでは漆の何を「うり」にしたらいいのか・・・・・・。そのヒントは、過去に於いて大きく栄えた文化を持つヨーロッパ先進国の身の振り方にある。デザインにおけるイタリアのポジションの取り方は実に見事だ。彼らの歴史の厚みを、表現のレベルを維持する上でしっかりと反映させていることは、イタリア産のほとんどの製品が表している。それらは、過去のDNAという基盤の上に、現在の表現を展開させるという強みを持ち、それが「もの」に厚みと個性を与えている。伝統工芸としての漆が再生する鍵はこのへんに在りそうだ。何れにしても、高度資本主義社会を迎えた日本は、付加価値をのせて市場で生き延びるしか道はない。綿々と続いてきた古典を、今に生かす術を何とかつかみたいものだ。なんとも凡庸な結論で情けないが、僕は作家なので、ここは作品を観ていただきたい、と言っておきたいところです。

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